アングル:日銀利上げと米利下げ、織り込みで市場一服 「出尽くし感」に警戒 02-Dec 16:10

日銀の植田和男総裁による1日の発言を受け、市場で12月の金融政策決定会合(18ー19日)での利上げ織り込みが進んでいる。ネガティブな反応が先行した株価はひとまず落ち着きを取り戻しているが、日銀会合だけでなく米連邦公開市場委員会(FOMC)の利下げ織り込みも進む中、イベント後の「出尽くし」への警戒がくすぶっている。

<織り込みは8割と9割>

日銀が早い段階で12月の利上げを織り込ませる方向に動いたことで、市場では「売りも買いも明確な材料がなくなり、一服の時間帯になってきた」(三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジスト)との受け止めが出ている。

東短リサーチ/東短ICAPによるオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)に基く試算では、12月会合での政策変更の織り込みは8割へと急上昇した。一方、米国では12月9、10日に行われる連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ織り込みも9割近くに上昇している。

日米の中銀会合での政策金利の変更をほぼ織り込む中で、相場に動きが出にくくなってきたとの指摘もある。この局面では、大口の投資家はさらにポジションを積み増すとサプライズが生じた際のリスクが高まりかねない一方、短期筋はリスクに見合ったリターンが得にくいからだ。

りそなホールディングスの武居大輝市場企画部ストラテジストは、米国での利下げが継続するという楽観的な環境を前提にする場合、12カ月先の1株当たり利益(EPS)予想に基づき、株価収益率(PER)を過去数年のレンジの上限付近となる15.5倍─16.5倍と想定すれば、日経平均は4万7000円─5万円のレンジになりそうだと試算している。

<イベント通過後の反応に警戒感>

一方、FOMC通過後の相場反応への警戒感はくすぶる。米連邦準備理事会(FRB)による利下げ期待が米株高を支援し、日本株の支えにもなっているが、米株には高値警戒感もつきまとっている。利下げの織り込みが進んだことは、利下げ決定後の「出尽くし」リスクと背中合わせでもある。

次の利下げへの思惑がつながるかがポイントだが「FRBのパウエル議長はデータ次第というスタンスを継続し、言質を取らせないだろう」とニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストはみている。

もっとも、FRBの場合、政策金利水準は0.25%の利下げ後でも3.50─3.75%と、追加利下げの余地も意識される。生成人工知能(AI)の導入による雇用数減少といった労働市場の構造的な変化への意識が強まるようなら、利下げ継続への思惑は残る可能性がある。FOMC後の16日には11月米雇用統計の発表を控えており、市場の注目度は高まりそうだ。

<利上げより、利上げ後に懸念>

日銀の利上げ自体へのネガティブな反応は限定的との見方が広がっている。

植田総裁は「政策金利を引き上げるといっても、緩和的な金融環境の中での調整」と述べており、市場でもこの認識は共有されている。「米国は利下げ方向にあり、日銀が利上げしても実質的に緩和環境は変わらない」とりそなHDの武居氏は話す。

三井住友DSAMの市川氏は「連続利上げでもなければ、引き締めでもない。利上げで株価がどんどん崩れていく流れにはならないだろう」とみている。大和アセットマネジメントの建部和礼チーフストラテジストは、今年1月の利上げ後の株価はイベント通過後にいったん持ち直した経緯があるとして「12月の利上げだけで株価の重しになり続けるとは思わない」と話す。

一方、為替市場では、日銀会合の通過に伴って「出尽くし」となり円安が再開する可能性が意識されている。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジストは「まだ物価水準との比較で政策金利のレベルが低すぎ、構造的に円安を止めるのは難しい」とみている。

日銀は足元の利上げ局面で政策金利の変更に半年以上、間隔を空けてきたこともあり、利上げ決定後には、次の利上げまでの時間的な猶予への思惑から円売りの安心感が生じやすいと植野氏は話す。過度な円安進行となれば、国内経済への悪影響への思惑から株価にネガティブに作用しかねない。

政策発表後の植田総裁の会見が焦点になるとみられ「日銀はファイティングポーズを取り続ける必要がある」とニッセイ基礎研の井出氏は話している。

(平田紀之 編集:石田仁志)