元米宇宙大手スペースX(SPCX.O)データサイエンティストのチップさん(50)は約350万ドル相当の同社株を保有している。最近、1万ドル相当のいん石と5000ドルの消防車を購入した。消防車をどのように使うかはまだ決めておらず、3歳の子供の誕生日パーティーの目玉にするかもしれない。
チップさんはスペースXの6月の新規株式公開(IPO)によって得た富のおかげで「くだらない」ものを買う自由が得られたとロイターに語った。
チップさんは米航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士だった故ジョン・グレン氏が1962年に地球周回軌道で手がけたミッションにインスピレーションを得た、8000ドル前後の腕時計「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー1887 スペースX クロノグラフ」に注目している。
昨年の株価上昇や最近の人工知能(AI)企業の株式公開によって、米国では推定約44万人のミリオネア(百万長者)が誕生した。ただ、これが 世界の高級商品業界に新たな黄金時代をもたらすかどうかはまだ不透明だ。
コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーのパートナー、フェデリカ・レバート氏は「この業界は他の業界や、支出や購入の選択肢となる他の分野との競争がますます激しくなっている」と指摘する。
中国市場での低迷が続き、世界の消費者の不安が高まる中で、苦境に立つファッションブランドはハイテク業界のミリオネアブームに救いの手を求めている。
ベインが今年6月に発表した調査結果によると、2025年に3580億ユーロ(4060億ドル)相当だった個人ラグジュアリー商品市場は過去2年で縮小した。
一方、フランスのモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)(LVMH.PA)、エルメス(HRMS.PA)、スイスのリシュモン(CFR.S)といった高級ブランドグループや、フランスのケリング(PRTP.PA)傘下のグッチにとって北米は26年1―3月期に最も急成長した地域の一つだった。
リシュモンのニコラス・ボス最高経営責任者(CEO)は5月、アナリストに対して「米国での消費者の高い信頼感」が好調な売り上げにつながったと語った。
<独自の好み>
ハイテク業界の新たなミリオネアへの売り込みにあたって、ブランド側はこうした層独自の好みや、従来の高級品とは異なる種類の競合製品への対抗策に取り組まなければならなくなっている。
「高校と大学でバレーボールをしていた」と話すAIストラテジストのザック・カス氏は23年まで生成AIモデル「チャットGPT」の開発元である米オープンAIの市場展開部門を率いた経験を持ち、スペースX株を保有している。カス氏は「オープンAIで得た利益を文字通り、(バレーボールの)プロスポーツチームの買収に充てた」と打ち明けた。
ハリソン・ライフスタイル・コンシェルジュの創業者、ハリソン・コルコード氏によると、体験やウェルネスへの関心の高まりを背景にハイテク業界の従業員たちは1日の歩数やカロリーを計測するスマートウオッチに関心を寄せている。
元スペースXエンジニアで、約400万ドル相当の同社株を保有するロバートさんは自身と妻がフィットネスにより取り組むため、スマートウオッチ「アップルウオッチ」を最近購入したと語った。また、米西部アラスカ州周遊のクルーズに出かけた後は、新たに得た資産の大部分を再投資する計画だと打ち明けた。
しかしながらロレックスや、リシュモンの高級ブランド「カルティエ」といったトップブランドの数千ドルもする腕時計は依然需要がある。これは再販価格が小売価格を上回る場合が多く、投資対象としての魅力もあるためだ。
コルコード氏は「タキシードやスーツを着る際にスマートウオッチを身に着けることはないだろう」と言及した。
スイス時計協会が1月に発表したデータによると、米国は25年にスイス製腕時計の主要な輸出先であり、トランプ米大統領が課した輸入関税による大きな混乱があったにもかかわらず世界全体の輸出の17%を占めた。
これに対してアパレルブランドは、他業界との競争も余儀なくされている。
ボストン・コンサルティング・グループのグローバル・ラグジュアリー・チームを率いるフィリッポ・ビアンキ氏によると、新たなミリオネアは代々続く資産を持つ層に比べ、スマートな服装や皮革製品への支出額が約33%少ない。代わりとなる最優先の支出先は不動産、ヨット、自動車といった耐久消費財だと説明した。
それでも、シャネルやエルメスのようなロゴが入った衣類を身に着けたがる富裕層も多いと、ハイテク企業の幹部らと仕事をしているカリフォルニア州在住のスタイリスト、メアリー・ゴンサルベス・キニー氏は指摘する。
一方、前出のチップさんは、アウトドアウェアを更新する可能性を除くと高級服を購入する予定はないと語った。最後に購入したジャケットは、中古品店「グッドウィル」で買ったものだ。
チップさんは「何年もTシャツと半ズボンばかり着ている。それが一番着心地が良い。これからも変わることはないと思う」と言い切った。