焦点:人民元国際化に低金利の追い風、起債や融資が拡大 22-Dec 16:13

人民元建ての債券や融資が伸びている。低い金利で人民元を資金調達通貨と化し、中国政府の推進する「人民元国際化」を後押ししている。

オンショアとオフショアの人民元建て債券発行も2年連続で過去最高水準にある。中国の銀行による海外融資は過去4年間で3倍に増え2兆5200億元に達し、ドル融資を追い抜きそうな勢いだ。

銀行関係者によると、ブームを支えているのは人民元の低金利だ。しかし市場の自律的な勢いも芽生え、人民元を保有し使いたいという需要も高まり始めた。中国が資本移動の自由化を進めなくても、人民元の国際化が前進している兆しだ。

ドイツ銀行中国オンショア債券資本市場責任者のサミュエル・フィッシャー氏は「現在の局面をけん引しているのは、人民元建ての資金調達に対する根本的な関心だと思う。単なる裁定と見なすのではなく、実際に人民元に資産を配分する機関投資家がどんどん増えており、(起債の際には)中国国外から非常に大きなアンカー投資家の注文もみられる」とし、「ドルは重要な岐路にあり、分散化は現実に進んでいる」と語った。

中国は長年、人民元を国際貿易・金融の通貨として普及させようとしてきた。国際決済銀行(BIS)によると、人民元の世界の外国為替取引に占めるシェアは着実に上昇し今年4月に約8.5%に達した。ドルは89%を占める。

中国以外の発行体は今年11月末までにオンショア市場で1697億元(約241億ドル)の債券を発行した。全ての発行体によるオフショア市場での元建て起債は過去最高の8019億元に上った。

ディールロジックのデータによると、今年の世界の起債総額は過去最高の9兆5700億ドル(ドル建て約4.5兆ドル、ユーロ建て約2.2兆ドル)に達しており、それに比べれば元建ての起債は微々たるものだ。しかし中国人民銀行のデータによると、外国人による人民元建てのオンショア、オフショアの起債額は過去3年間で倍増している。

人民銀行のデータによると、融資市場では外貨建て(大半はドル建て)の融資残高が11月末に3750億ドルと2022年のピーク時点の5870億ドルから減少した一方で、人民元建て融資は3570億ドルに達した。

<低金利が最大要因>

発行体にとって最大の動機は金利だ。

米国の金利がインフレ抑制のために上がる一方、中国の金利がデフレ阻止のために下がったことで、人民元の資金調達コストは22年からドルを下回っている。

中国国債10年物と米国債10年物の利回りの差は今年初めに315ベーシスポイント(bp)近くに達し、日本国債10年物の利回りでさえも中国国債10年物を約20bp上回った。

S&Pグローバルによると、中国国外の主体が中国国内で発行する人民元建て債券「パンダ債」3年物の発行利回りは今年1.7―2.7%で、同年限の米国債の3.5%を大きく下回った。

「変動の激しいドルやユーロに比べて価格が比較的安定していることが、人民元の魅力をさらに高めている。外国の発行体にとって、コストのかかる為替ヘッジの必要性が最小限に抑えられるためだ」とS&Pグローバルは指摘した。

しかし、こうした好ましい金融環境以上に「地政学的な緊張や関税」が貿易の地域化を加速させ、人民元建て資金調達の需要を押し上げていると、リンクレーターズの資本市場パートナー、テレンス・ラウ氏は指摘する。

「その恩恵を受けるのは中国と『一帯一路』のような政策だ」とラウ氏は語る。中国のインフラ戦略である一帯一路の資金は、しばしば中国の建設企業に還流し、人民元で支払われるからだ。

今年はインドネシアやカザフスタン開発銀行のような発行体が、オフショア人民元建て債券「点心債」を発行し、インドネシアは10月に60億元、カザフスタンは9月に20億元を調達した。

ケニアは10月に鉄道建設のためのドル建て融資を人民元建てに切り替え、エチオピアも同様の交渉をしている。中国国家開発銀行と南アフリカ開発銀行は今年、初の人民元建て融資の協力契約を締結した。

<ドル支配に対する防御>

投資家にとって人民元建ての社債や金融機関債は、国債よりも高い利回りを提供しくれるもので、中国の不動産不況によって開発業者の借り入れが閉ざされ、アジア債券市場が縮小してしまって以降の運用先となっている。

「アジア以外の国際的な債券投資家からも関心が着実に高まっており、今後も続くだろう」とアムンディのアジア投資責任者フロリアン・ネト氏は語った。

「最近のオフショア人民元建て起債には力強い注文が入っており、中国内外の発行体が今後オフショア人民元を潜在的な資金調達手段として検討することを後押しするだろう」

人民元は慎重に管理され、安定的に推移する点も魅力だと、シンガポールに拠点のあるM&Gインベストメンツのアジア債券運用担当者、ウィリアム・シン氏は述べ、ヘッジなしで4―5%のリターンが見込めるとした。

もちろん、オフショア人民元債の規模は中国の国内債券市場の約0.2%に過ぎず、ドル建てやユーロ建ての債券市場に比べても非常に小さい。

人民元が今年ドルに対して約3.6%上昇したことも、借り手にとってマイナス要因にもなり得る。しかし中国は慎重に人民元相場の上昇を抑え、国有銀行がドルを買って通貨の動きを安定させている。

「この慎重姿勢が変われば、海外融資の伸びが鈍化または停止する可能性があるだろう。しかし、もっと可能性が高いのは、海外向け人民元融資が最高水準を更新し続けることだ」とガベカル・ドラゴノミクスのエコノミストのウェイ・へ氏は述べる。

さらに、アナリストによれば、中国は必ずしもドルを打倒しようとしているのではなく、むしろドルシステムの外で資本市場の基盤を構築しようとしている。

「中国はドルと衝突せずに、数千の調達と決済の積み重ねによって通貨システムを移行させるプロセスを設計している」と、香港にあるBNPパリバ資産運用のグローバル市場ストラテジスト、チ・ロー氏は語った。

「この政策の目的はドルを追い落とすことではなく、ドル支配のシステムが中国に対して行使されないようにすることだ。防御的な動きなのだ」