アングル:ソフトウエア各社、AIによる「業界終末論」に反論 15-Mar 07:27

人間の作業を大幅に自動化する人工知能(AI)ツールは、ソフトウエア業界に「終焉(しゅうえん)」をもたらすのか――この議論に割って入ったのが、米オラクル(ORCL.N)のマイク・シシリア共同最高経営責任者(CEO)だ。彼の下した結論は、断固「ノー」だった。

「みなさんは、AIを使って迅速にコーディングする新興企業が、『サービスとしてのソフトウエア(SaaS)』の死を招くという説を耳にしたことがあるだろう」。シシリア氏は10日​のアナリスト向け電話会議でこう述べた。「私はその説に全く同意しない。もしもわれわれがAIを採用していなければ、AIツールとそのコーディング能力は脅威になっただろうが、実際われわ‌れは極めて迅速に採用している」

シシリア氏は従来のソフトウエア企業の製品が担ってきた顧客情報の管理や、業務プロセスの誘導といった業務の一部を新しいAIツールで代替できるようになったことに関して、ウォール街の懸念に応えたものだった。

こうした懸念は先月、ソフトウエア関連株がほぼ1兆ドル急落する事態を招いた。有力なAIスタートアップのアンソロピックがデジタルアシスタント「クロード・コワーク」用のAIプラグインを発表した後のことだ。ソフトウエア各社のCEOはそれ以来、決算発表後の会議の場を​借りて反論している。

シシリア氏はさらに、オラクルが競合企業のセールスフォース(CRM.N)よりも先行していると主張。オラクルが既存のツールにAI機能を追加するだけでなく、AIを使って実際に新製品を企画し​ビジネスプロセス全体を自動化していると述べた。

セールスフォース側は異なる防衛策を打ち出している。マーク・ベニオフCEOは先月、アナリストらに対していわ⁠ゆる「SaaS黙示録」がどのように起きたとしても生き抜くと語った。この言葉は、先月SaaS企業を襲った世界的な株価暴落を指している。

ベニオフ氏は自社の顧客を招き入れ、セールスフォースは今や、AIエージェントを構築・展開​し、その運用を管理できる企業向けプラットフォームへと進化した会社だとアピールした。そして、その基盤として同社が持つ膨大な顧客データや営業プロセスのデータが活用されていることを強調した。

AIの先駆者で​ある半導体メーカー、エヌビディア(NVDA.O)のジェンスン・フアンCEOでさえも先月、AIがソフトウエアや関連ツールに取って代わるのではないかという懸念を否定。「非論理的だ」と一蹴した。

<独自のデータが最強の防御>

オラクルは10日、AIブームが今後数四半期にわたって自社の収益を押し上げるとの見通しを示し、翌日の株価は10%上昇した。同社はAIが模倣するのが難しい財務、サプライチェーン、人事にわたる企業の深層データを保有している。

ロイターが調査した10人以上の技術アナリストや投資家らは、独占的な財務、法務、デザイン、​あるいは技術データを長年保有している企業が最も強力な防衛手段を持っている可能性が高いと答えた。

オーシャンパーク・アセットマネジメントのジェームズ・セント・オービン最高投資責任者(CIO)は「独自データは間違​いなく最強の防御壁だ」と語った。

セールスフォースの場合、新興企業がCRM(顧客関係管理)ソフト分野における同社の優位性を切り崩そうとしているが、同社のソフトは企業の基幹システムと深く一体化しており、そのリアルタイム‌のデータ運用⁠基盤は50兆件を超える記録を管理している。

一部のアナリストによると、企業は何年もかけてセールスフォースの製品を中心に日常業務を構築しており、代替が難しく、他社製品に乗り換えるコストは高いという。

ただ、AIはこの障壁を侵食し始めており、はるかに少ない人間の労力とコストでコードを生成しアプリケーションを構築するのが容易になっている。

セールスフォースのAI部門を率いるマダブ・タッタイ取締役副社長は、企業が個別のAIツールを試験的に導入するに留まっているのに対し、自社は傑出した包括的なシステムを構築したと主張。数十年におよぶ企業分野の経験から恩恵を得ていると付け加えた。

オラクルはロイターのコメント要請のメールに回答しなかった。

<破滅​や絶望ばかりではない>

伝統的なソフトウエア企業の「終焉」​に対する懸念は根強く残っているが、アナ⁠リストらは全てのデータが同じ価値を持つわけでないと述べた。

人事・給与管理ソフトのワークデイ(WDAY.O)は大量のデータを保有しているが、その中核製品が人事・給与データを扱っており、統一された業界標準的なフォーマットに従う傾向があるという。つまり、AI企業はその種のデータに基づいて構築されたツールから、より簡単に学んだり、​複製したりすることができるということだ。

ワークデイは先月「急速に進化するAI時代に」企業を率いるため創業者のアニール・ブスリ氏をCEOとして復帰させた。​だが、株価は今年に入って3分の1超下⁠落し、先月は低調な売り上げ予測のために5年ぶりの安値水準に沈んだ。ブスリ氏は先月の決算発表後のアナリスト向け電話会議で、ワークデイのシステムにはAIで再現できない20年分のビジネスプロセスが組み込まれていると述べた。

ブスリ氏は「AIの能力は驚異的だが、その正体は、確率に基づいた推論に過ぎない」との見解を提示。「AIの推論や予測、推奨は、あくまでパターンと蓋然(がいぜん)性に基づいたものだ。いずれは、毎回同じ手順を踏めば必ず同じ結果を出す『⁠確定的なシス​テム』に進化するかもしれないが、現状はまだその域に達していない」と語った。

アナリストの中には、AIがもたらす生産性の向上が雇用​と成長に拍車をかける可能性があるとみて、企業向けソフトウエア業界は現在の評価額よりも回復力があると考える者もいる。

一部のアナリストはAIがもたらす生産性の向上が新たな雇用や成長を促す可能性があると主張し、企業向けソフトウエア業界には現在の市場評価​が示すよりも回復力があることが分かるだろうと考えている。

「こういった企業の一部に、まだ死亡診断書を書くつもりはない。AIによって生まれ変わるチャンスがあるからだ」。オーシャンパークのオービンCIOはこう述べた。