コラム:ユーロと人民元の「野心」、基軸通貨ドル安を加速 12-Feb 11:57

ドルが再びユーロと人民元に対して下落している。欧州と中国の指導者らが基軸通貨ドルに対する疑念の高まりを好機とみて、自らの通貨の国際的地位を高めようとしているタイミングと重なる。もっとも足元の為替レートの動きは全ての当事者、とりわけ米政府にとって望ましい方向で推移しているように見受けられる。

中国の春節(旧正月)の休みが迫る中で、人民元は対ドルで約3年ぶりの高値を記録。ドルの人民元に対する2025年初めからの下落率は6%に達している。

この間ユーロ/ドルの上昇率は15%とより際立っており、先月付けた1.20ドル超の5年ぶり高値近辺で取引されている。

いずれも欧州や中国の当局者や指導者による最近の発言に沿った値動きだ。

5日には複数の欧州中央銀行(ECB) 関係者が、ECBはユーロ圏以外の中銀向け流動性供給制度の拡充を検討していると述べた。

10日にはオーストリア中銀のコッハー総裁が、ECBは大きな変化に備えるべきと指摘。貿易相手がユーロへの関心を強めており、だからこそユーロ高が進み、安全な避難先としての存在感を高めているとの見方を示した。

一方、中国の習近平国家主席は1日、中国が国際貿易・金融取引や準備資産として幅広く利用される「強力な通貨」を望んでいると改めて表明した。

欧州と中国の双方が感じているのは、トランプ米大統領の2期目就任以降の米国の外交・通商政策の混乱ぶりを目の当たりにした世界中の投資家が、国際金融分野でのドルの圧倒的な地位に疑いを持ち始め、対応しようとしている状況だ。

ただ、ドル安が歓迎されていることと、トランプ政権の多くがドル安を受け入れている新たな世界秩序がもたらす影響は別物であり、全ての関係者は慎重に動く必要がある。

真の国際貿易のリセットや、世界的な不均衡の解消に必要な国境を越えた投資のシフトに伴うドル安を、トランプ政権が容認しているとの見方がここ1年にわたって広がっている。

実際、トランプ氏は1 月の急激なドル安を「素晴らしい」と評した。ベセント財務長官は、数十年も前から少し色あせた「強いドル」というスローガンを再び持ち出したかもしれないが、このフレーズは必ずしも現在の為替レートを指すものではないと常に説明している。ベセント氏の主張に基づくと「強いドル」とは、最終的には強さをもたらす政策を指すのだという。

同時に、トランプ氏が特にアジア全域で取り組む複数の二国間貿易協定に、為替レートに関する暗黙の合意が組み込まれているかどうかについては依然疑問が残る。

とはいえ、舞台裏で何が起きていようと、また指導者らが通貨の国際化のために真に何を企てようと、市場は新年に起きたドル安再燃の動きを払しょくすることには消極的だ。

<重要なユーロ/人民元の安定>

興味深いのは、ドルが苦境に置かれる中でもユーロ/人民元相場は2025年4月の「米相互関税ショック」以降はほとんど動いていない点にある。

ドルが今後ユーロと人民元のどちらに対してもさらに下落が続くとしても、貿易面で密接に結びついたユーロと人民元の取引レートが安定することは重要な意味を持つ。

ECBの算出するユーロの貿易加重レートでの人民元のウエートは15.5%で、ドルのウエート17.4%に近い。逆に人民元の貿易加重レートでユーロのウエートは18%と、ドルのウエートにほぼ等しい。

米連邦準備理事会(FRB) 算出のドル貿易加重レートでは、ユーロのウエートが21%で人民の10%の2倍超だが、ドルがユーロと人民元どちらか一方に対して弱くなれば、その影響はすぐ加重レートに反映されるだろう。

ガベカル・リサーチのチャールズ・ゲイブ氏は、5年物の利回りで見た米国債の中国国債に対する220ベーシスポイント(bp)のアドバンテージは、今から2031年までにドルが人民元に対してあと10%安くなることで実質的に解消され、相対的に利回りが低い中国国際の魅力がより大きくなる、と指摘する。

ゲイブ氏によると、中国の物価上昇率が過去5年余りで少なくとも米国を200bp下回って推移していることを踏まえれば、そうしたドル安元高は基本的に正当化されるという。

今週に入って中国当局が自国の銀行と投資家に米国債への過度な資金集中を考え直すよう指導したと伝えられたことも、ドルの地合い悪化を助長した。

ユーロ建て国債の場合、ユーロ高は投資家にとってさらに抗しがたい妙味を生み出す。それはユーロ高により、最終的にECBが追加緩和に動かざるを得なくなるからなのは言うまでもない。

だから結局のところドル安は誰もが喜び、10年余り続いたドルの過大評価を巻き戻す上で何らかの政治的取引、もしくは新たな協定は必要とされない。

これは真実かもしれない。しかし、市場はあっという間に勢いが増し、予想以上に大きな動きになる可能性がある以上は警戒しなければならない。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)