コラム:FRB批判派ウォーシュ氏が次期議長に、役割縮小と規制緩和を主導へ 26-Feb 14:14

米連邦準備理事会(FRB)を15年間にわたって批判し、あの手この手で説得しようとしてきたケビン・ウォーシュ氏(55)が、そのFRBのトップに就こうとしている。ライバルを退けてトランプ大統領から議長に指名される見通しとなったウォーシュ氏は、2008年の金融危機の影響を色濃く引きずってきたFRBを作り替える、類いまれなチャンスを手にしたことになる。

実際、ウォーシュ氏の優先項目は、そうした長引いた金融危機後の時代の流れとは完全に逆方向になる。つまり、FRBの経済への影響力の縮小、銀行規制の緩和、危機対応で使われてきたツールの見直しだ。ウォーシュ氏の厳しい批判的な姿勢や主張の揺らぎには注意が必要だが、もし彼が制度を尊重するという以前の立場に忠実であるならば、FRBの政府との向き合い方を健全な方向へと戻すことも可能だ。

ウォーシュ氏はスタンフォード大とハーバード大で法学を学び、06―11年にFRB理事を務めた。理事時代には、深刻な不況で失業率が10%に達した後でさえインフレリスクに極端に厳しい態度を取るタカ派として名を上げ、量的緩和(QE)に反対であることなどを理由に辞任した。QEは当時のバーナンキ議長が、凍り付いた経済に資金を供給するために導入。FRBは米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を大量に買い入れ、その結果、バランスシートの規模は危機前の9000億ドル弱から、コロナ禍後には9兆ドルにまで膨らんだ。

ウォーシュ氏はこの膨張したバランスシートを縮小する考えで、特にMBSを減らす方針を打ち出している。これは、FRBのバランスシートの膨張が債券市場をゆがめていると主張するベセント財務長官と同じ姿勢だ。しかしウォーシュ氏はさらに踏み込んで、FRBの緊急流動性供給ツールや銀行規制、そして記者会見やデータ公表を通じたフォワードガイダンス(金融政策の先行き指針)も見直しの対象にしようとしている。

多くの改革はやむを得ない事情から生まれたものだ。FRBのバランスシートが膨らんだのは、通常の金融政策では金利をゼロ以下に下げられず、これ以上景気刺激ができなかったための対応だった。そしてバランスシートが膨らむと、準備預金などFRBの負債への需要がさらに大きくなり、仕組みを元に戻しにくい状態が生じると、元FRB職員でジョンズ・ホプキンス大学教授のジョナサン・ライト氏は説明する。また、この構造的な変化によって金利の決まり方そのものも大きく変わった。以前は「準備預金が少ない環境で、その量を調整する」ことで金利を動かしていたが、今は違う。さらに、準備預金量を調整するにはFRBが市場に毎日介入する必要があり、ゼロ金利の時期には特に負担が大きかったと、ウォラーFRB理事が7月に述べている。

改革は一気には進まず、少しずつ行われるだろう。FRBは保有している2兆3000億ドルのMBSについて、満期の際に再投資せず、短期の米国債に乗り換えることができる。また財務省と連携して米国債の発行や購入を調整すれば債券市場の流動性改善にもつながる。米資産に対する海外需要の行方や、利回り曲線をどこまでコントロールできるかが懸念される中、銀行がより多くの資本を米国債購入に充てられるようにホワイトハウスと協力すれば、需要を支えられる。ノーザン・トラストのチーフエコノミスト、カール・タネンバウム氏は、FRBのバランスシート縮小の難しさについてこう投げかけている──「FRBが大口で買ってくれないのなら、その分を誰が吸収するのか」と。ベセント氏も拙速は避けるべきだと認めており、FRBはおそらく27年まではバランスシートに関して大きな動きは取らないだろうと述べている。

もっとも、このような政治との緊密な連携は本来タブー視される話だ。トランプ政権は緩和的な金融政策を求め、現体制のFRBに圧力をかけており、司法省はパウエル議長の本部改修費用を巡る刑事捜査を続けている。ホワイトハウスは依然としてクック理事の解任を目指しており、この件は最高裁の判決待ちだ。

バーナンキ氏やイエレン氏ら歴代FRB議長は、政府が金利決定に干渉する危険性を繰り返し警告してきた。ウォーシュ氏は今回の政権下では以前より著しく「ハト派」寄りの立場になったが、FRB議長として独立性を示す必要がある。幸いなことに、トランプ大統領は任期に制限があるため、ウォーシュ氏はトランプ氏から再指名を得られるかどうかを気にせずに済む。就任後に一貫した考えを示し続けられるかが極めて重要だ。というのも、金利の最終決定は議長以外に11人いる連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの多数決で決まるからだ。彼らを納得させる必要がある。

金融政策の独立を守るという強い姿勢を示せれば、大きな改革の後押しになる。ウォール街や理事会内で既に支持を確保しているだけになおさらだ。ボウマン副議長(金融監督担当)は既に、監督スタッフの3割削減に着手している。「バーゼル3」最終化案の修正など、銀行資本規制の緩和は大手銀行や共和党の議員を喜ばせるだろう。

ただし、FRBの役割が膨らみすぎているという批判を本当に解決できるかどうかは、危機が起きたときにしか分からない。ウォーシュ氏が最初に理事になった06年当時にはなかった仕組みや権限を、FRBはその後の危機対応で作り上げてきた。FRBが最後の貸し手として提供する緊急融資の仕組みは市場崩壊の中で生まれたものであり、ウォーシュ氏自身も08年のベアー・スターンズ救済で重要な役割を果たした。人工知能(AI)投資ブームが失速すれば大混乱が生じかねない。労働市場は減速し、貿易戦争も続いている。

本当に深刻な事態になれば、FRBは他のどの機関にもできないリスクを取りうるし、取らねばならないだろう。確かに救済措置やリスクの高い行動に対する緩和策は、経済学的に「望ましい処方箋」とは言いがたい。それでも、信用収縮が全面的な大恐慌へと広がるのを防ぐ効果はある。究極の事態になればウォーシュ氏も「極限状態では無神論者はいない」ということわざの通り、全能であるFRBの力の前にこうべを垂れざるを得ない瞬間が来るかもしれない。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)