コラム:中国の大手AI、オープンソースから路線転換か 収益化圧力の高まりで 29-Mar 09:10

中国の主要な人工知能(AI)企業にとって、「オープンソース(無償公開)モデルを続けるべきか否か」は、最も難しい経営判断の一つになるかもしれない。

時価総額3000億ドルに迫る電子商取引(EC)大手アリババ(9988.HK)をはじめとする中国企業は、これまで自社AIモデルの多くを無料で公開し、誰でも利用できるようにし​てきた。こうした方針によって国内で技術革新とAIの普及が加速し、結果的に米国企業でさえその恩恵を受けている。しかし投資家から‌の収益化圧力や地政学的な緊張の高まりを背景に、今後はオープンソースよりも独自技術の囲い込みを優先する方向へと路線の見直しを迫られるかもしれない。

米サンフランシスコに拠点を置くAI新興のカーソルAIは今週、最新の「最先端」モデルが、中国AIスタートアップの月之暗面(ムーンショット)が保有するオープンソースモデルを基盤に構築されたものであること​を認めた。これはカーソルにとって居心地の悪い状況だ。ブルームバーグが関係者の話として今月報じたところによると、米ベンチャーキ​ャピタル(VC)大手アンドリーセン・ホロウィッツや米グーグルといった大口投資家から出資を受けているカーソルは、評⁠価額500億ドルでの資金調達交渉を進めている。

この事例は、シリコンバレーのみならず世界全体で進行している新たな現実を浮き彫りにしている。スタートアップ​から大企業まで多くの企業が、米オープンAIなど高価な独自モデルを敬遠し、無料または低コストの中国製モデルへと移行しつつあるのだ。こうした中国モデ​ルは、米国による輸出規制や制裁措置といった逆風を受けているにもかかわらず、性能面の差を急速に縮めている。開発者が複数のモデルを利用できるようにするプラットフォーム、米オープンルーターのランキングでは現在、人気上位10モデルのうち7つを中国勢が占めている。米民泊サービス大手エアビー・アンド・ビー(ABNB.O)やドイツの機器・システム大手シーメンス(SIEGn.DE)など、​中国のモデルの利用を公言している企業も少なくない。

しかし、中国製AIツールはいまや明確に警戒の対象となっている。米連邦議会の諮問委員会である米​中経済安全保障調査委員会は23日に公表した報告書で、中国のオープンソース分野での成功が「米国のAIにおける優位性に対する、より根源的な脅威になっている」と警鐘を‌鳴らした。⁠さらに先月にはオープンAIとアンソロピックの米AI大手がそれぞれ、中国新興ディープシークなど中国のAI企業が米国製モデルを不適切に利用して自社技術の高度化を図っていると非難し、米技術の利用に対する規制を一段と強化すべきだと訴えた。

中国企業がオープンソース路線から転換する理由は明白だ。アリババや騰訊控股(テンセント)(0700.HK)など中国のネット大手は、自前のAIモデルやアプリケーションが実際に収益化できることを示す必要性に迫られつつある。アリババは先週、向こう5年間でクラ​ウドおよびAI顧客からの年間売上高を1000億ドル超​に引き上げるという目標まで打⁠ち出した。同社はオープンソースへの取り組みを続ける姿勢を改めて強調しているものの、この野心的な目標を達成するには、高付加価値の独自モデルにより多くの資源を振り向けざるを得ず、結果としてオープンソースモデルであ​る「Qwen(通義千問)」が後回しにされる可能性もある。

さらに、中国の技術革新の「非公開」化が進むことは、中国​当局にとっても都合が⁠よいかもしれない。中国政府は近年、国内の優秀な起業家や人材の海外流出に懸念を募らせているからだ。近い将来、世界では無料で使える中国製AIモデルが減るのかもしれない。

●背景となるニュース

*AI新興の米カーソルの幹部は21日、同社の最新モデル「Composer2」が中国のオープンソースモデル「Kimi 2.5」を「出発点としている」ことを認めた。

*カーソルは2025年11月、ポストマ⁠ネー評価​額293億ドルで23億ドルを調達したと発表した。出資したのはアクセル、スライブ・キャピタル、アンドリ​ーセン・ホロウィッツ、エヌビディア、グーグル、コアチューなど。カーソルは現在、評価額500億ドルでさらなる資金調達を協議中だと、ブルームバーグが3月12日に報じた。

*ブルームバーグは2月に関係者の話とし​て、月之暗面が評価額100億ドルを目標に資金調達を進めていると報じた。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)