「費用は膨らみ、支持はしぼむ」──。近年の英国王室はこの一言に尽きる。国の儀礼的元首であるチャールズ国王の一族にとって、これほど厄介な組み合わせはない。批判派が王室の年間コストを約5億ポンド(約1060億円)と見積もる中、政治が本気で「ウィンザー家の値札」を問い直す日が来かねない。ならば、嵐を待つより先に、王室費の化粧直しを始める手がある。
英王室は圧力にさらされている。チャールズ国王の弟で称号を剝奪されたアンドルー元王子を巡るスキャンダルは、性的虐待で有罪判決を受けた後に自殺した富豪、ジェフリー・エプスタイン元被告との関係のみならず、昨年10月に追放されるまで元王子の邸宅であった「ロイヤルロッジ邸」の使用問題にも波及している。
英国立社会調査センターの世論調査では、王室を廃止すべきだと考える国民の割合は15%。ダイアナ元妃の死去後、王室への反発が強まっていた1997年の水準よりも高い。君主制の存在が「とても重要」または「非常に重要」と考えているのは51%にとどまり、2012年の75%から大きく下がった。現時点で君主制廃止を提唱する主要政党はないものの、これも時間の問題だろう。45歳未満では、君主よりも選挙で選ぶ国家元首を望む声が強い。そうなれば、チャールズ3世と家族を支える税負担は一層、正当化しにくくなる。
無論、王室が英国人の財布を最もむしばむ存在というわけでもない。王室廃止を訴える団体「リパブリック」は、警備費やその他の費目(不動産の利用など)を織り込んだ「総コスト」を、2024年で年5億ポンド前後と推計する。合理的にあり得る推計の上限と考えてよい。20歳以上の国民1人あたりでは年約9ポンドで、ロンドンのビールなら2パイントにも満たない。
だが、その「我慢したビール」が生む見返りは見えにくい。王室は国際的な訴求力で観光を潤す――しばしばそう語られる。海外から人が来て、城を訪ね、王室行事を見物し、金を落とし、雇用を生む、という筋書きだ。ところが、英国経済に占める観光の比重は欧州の標準から見て高くない。英国家統計局(ONS)によれば、観光部門の「総付加価値(経済全体への寄与度)」は23年に600億ポンドで、全体の3%未満にとどまった。これは欧州連合(EU)の19年平均4.5%より低く、同規模の経済をもつフランスやドイツ(いずれも4%)も下回る。両国に君主制はない。さらに、23年のチャールズ3世の戴冠式でさえ、過去の年と比べて英国の観光が目立って成長した形跡は乏しい。
こうした状況では、王室のコストが近年上昇していることが一層目につく。背景の一つはバッキンガム宮殿の改修で、費用は3億6900万ポンドに達する。目玉の支出枠が「ソブリン・グラント」だ。これは財務省が毎年、王室に支出する資金で、公務の費用や居宅の維持に充てられる。前出のリパブリックの推計では、警備や不動産関連の補助などと並び、王室にかかる税負担の主要項目の一つだ。年平均増加率は13ー16年に約12%に達し、同期間のインフレ率や賃金上昇率を大きく上回る。改修が完了すれば数字は下がる見込みとはいえ、労働者の生活費高騰が有権者の主な関心事となっている今はとりわけ、政治的に不利になり得る。
それでも王室には、将来の嵐を前に「家計の見直し」を始める余地がある。この複雑な制度の起源は2世紀半前、1760年にさかのぼる。当時の国王ジョージ3世が王室の資産と歳入を国家に譲渡する代わりに、固定給付金を受け取る仕組みが確立された。直近での大きな変更は2011年、オズボーン元財務相(保守党)の下で実施された。制度改革により、「クラウン・エステート(王室の資産)」がもたらす利益のうち、一定の割合を王室が受け取れるようになった。土地や公園、風力発電所用地などが含まれ、その資産価値は130億ポンド相当に上る。王室が受け取る割合は現在12%で、首相と財務相、そして「キーパー・オブ・ザ・プリヴィ・パース(私的財布の管理人)」と呼ばれる国王手許金会計長官の提案によって決定されている。増額には議会の承認が必要だ。
王室の収入がクラウン・エステートの利益に連動しているため、王室一家、ウィンザー家が「自分で稼いでいる」ようにも見える。だが実態は違う。国王は一家とは別の憲法上の実体として資産を所有し、その利益を財務省に納めている。それには洋上風力発電業者に対して英国領海や排他的経済水域の海底をリースする事業などからの利益も含まれる。政府は、王室の予算をクラウン・エステートの収益に恣意(しい)的に連動させる決定を下したが、これを容易に撤回することも可能だ。将来の政治的な反感を和らげたいなら、理屈の上では、両者を切り離し、国王の歳費をインフレ率やGDPに連動させる案を提案できる。
さらに、私有財産と公有財産の線引きをより明快にする道もある。チャールズ3世とウィリアム皇太子が収入を得る「ランカスター公領」と「コーンウォール公領」の資産群が、その代表例だ。これらの資産には、ロンドンのクリケット場「ジ・オーバル」や、アーサー王伝説ゆかりの地として知られるティンタジェル城なども含まれる。これらは個人が所有するのではなく、公式の称号に付随するため、当人の私有財産ではない。それでも、23-24年の会計年度には約5000万ポンドの収入が国王と皇太子に流れ、公務費にも私的所得にも使える。
事情に詳しい関係者がロイター・ブレイキングビューズに明かしたところによると、ウィリアム皇太子は公領からの収入を含む全ての個人所得に対し、自発的に最高税率の所得税を納めている。バッキンガム宮殿の広報担当者によれば、チャールズ国王も同様に最高税率の所得税を自発的に納付しているという。とはいえ、その納税額は公表されず、現行の取り扱いは不透明だという非難を招いてきた。しかも、ソブリン・グラントに上乗せして、なぜ追加の収入が必要なのかも判然としない。公領の管理をクラウン・エステートのような形で一元化し、収入を国庫に流す仕組みに改めた方が、筋は通る。
こうした改革は、制度の機能を損なわずに、王制批判の多くを封じる手立てとなるだろう。加えて、ブランド価値評価会社ブランドファイナンスが年に1億4000万ポンドと推計した警備費など、その他のコストを独立監査することも考えられる。また、王室が公的建物を利用するあり方も、点検の余地がある。
王室を細身にすれば、神秘性や華やかさは幾分か失われるかもしれない。だが、将来の政治的な攻防に備える体力は、むしろ増すだろう。