コラム:大学教育の元は取れるのか、AIの浸透で「賃金プレミアム」に陰り 04-Jan 06:26

何十年ものあいだ、高等教育は多くの10代にとって「考えるまでもない選択」だった。大学の学位は高給の職業への通行証とされ、ホワイトカラーを目指す若者は進学し、膨らみ続ける学費を受け入れてきた。

だが、その前提が揺らいでいる。人工知能(AI)の利用が法律事務所、銀行、コンサルティング会社、メディア企業、テクノロジー企業へ広がるにつれ、大卒向けの職は減る可能性がある。最近の研究は、米国で22ー25歳のソフトウエア開発者の雇用水準が、2022年後半から25年半ばにかけて約20%近く低下したことを示す。この傾向は26年にさらに加速し、進学を考える高校生に再考を迫るだろう。

大学の歴史は何世紀にも及ぶ。だが「大卒の学位(学士)」が社会で本格的な意味を持ったのは第2次世界大戦後だ。1940年代、学位を持つ米国人は20%未満だった。ところが2022年には約40%近くまで上がった。西側でホワイトカラーのサービス労働が拡大したことが背景にある。学位があれば給与の高いデスクワークに就きやすい。そういう現実があった。

例えば、25年第2・四半期には、少なくとも学士号を取得した25歳以上の給与所得者の週給は1732ドル(約27万円)だったのに対し、高校卒業資格のみを持つ米国人の週給は960ドルにとどまる。米国労働統計局のデータによると、この80%の賃金プレミアムは年換算で約4万ドルの上乗せに相当する。2000年以降ほぼ一貫してきた差だ。

これが学生と大学の「暗黙の契約」の核心だ。これがなければ、米国の大学生が4年制学位の総費用50万ドルを負担する理由はないだろう。この推計は「Education Data Initiative」によるもので、授業料、生活費、ローン利息、働いていれば得られたはずの賃金(逸失賃金)まで、あらゆる費用が含まれている。

いま最大の難題は、その「進学費用の元を取るために必要な大卒向けの仕事」を、AIが奪いかねない点にある。最も踏み込んだ見立てを示すのは、生成AI「Claude」を手がけるアンソロピックの共同創業者兼最高経営責任者(CEO)のダリオ・アモデイ氏だ。彼は25年半ば、AIが5年以内にホワイトカラーのエントリーレベルの職の半分を消し去り、失業率を10ー20%へ押し上げる可能性がある、と語った。誇張が混じるにせよ、チャットボットや仮想エージェントが、金融・専門サービス・ITサービス分野で若手に割り振られてきた業務の多くをこなせる、という点は否定しがたい。

マイクロソフト(MSFT.O)のサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は、同社のコードの20ー30%がすでにAIによって書かれている、と述べた。求人情報サイト「Indeed」の25年6月のデータでは、英国での「大卒向け求人」の掲載数は前年同月比12%減となり、18年以降、求人全体と比較して最低水準となった。

米国では、ニューヨーク連邦準備銀行の集計によると、25年上半期の大学新卒者の月間失業率は平均5.3%だったのに対し、全労働者の失業率は4%だった。歴史的には、これらの数字は逆で、新卒者はそうでない人よりも仕事を見つけやすいとされていた。

エントリーレベルの職が減少すれば、当然ながら大卒者の給与は下がる。ロンドン大学キングス・カレッジによる10月の研究は、先行きに警鐘を鳴らすものだ。研究者は、21ー25年の数百万件の求人票とビジネス向け交流サイト(SNS)リンクトインのプロフィールを分析。2022年後半に米オープンAIの「ChatGPT」が公開されたことが転換点になったと結論づけた。

AIによる破壊的イノベーションの影響を強く受けやすい職種――ソフトウエア技術者、データ分析、マーケターなど――では、求人が23%減り、提示賃金も6%圧縮された。影響はとりわけエントリーレベルの職に集中していたという。

暗い見通しを前に、いま高校生が直面する問いは、4年後に卒業するとき大学進学の費用対効果がなお成り立つのか、という点だ。リスクは、学士号がもたらす賃金プレミアムが縮み、入学しても費用に見合わないという水準に達しかねないことにある。ITコンサル大手アクセンチュア(ACN.N)などが最近、AIへの適応に苦しみかねない労働者を含め、数千人規模の解雇を発表したという厳しいニュースもある。

大学側も危機感を強める。多くが、より「AIの影響を受けにくい」職業につながる講座を拡充しようとしている。医療は、比較的底堅い職域の1つとして浮上した。看護師、理学療法士、助産師は、大規模言語モデルに置き換えられないからだ。とはいえ、大学が、科学やリベラルアーツを提供してきた伝統から、どこまで職業訓練型へ舵を切れるかには限界がある。

淘汰も避けられない。英国では2000年以降、30校以上の大学が新設されたり、職業訓練色の強い専門学校「ポリテクニック」から転換したりしてきた。結果として、供給過剰に見える。英「Times Higher Education」は7月、「英国の大学の5校に1校が、生き残りのため合併を検討している」と報じた。米国の大学も、入学者数の伸び悩みにすでに直面している。米国立教育統計センター(NCES)によれば、入学者数は10ー21年に15%減少した。格付け会社S&Pグローバルは、米国の高等教育機関が近年、コスト上昇に追いつくほど授業料を引き上げられず、苦戦していると指摘する。

では、大学を離れた若者はどこへ向かうのか。選択肢の1つは軍だ。昨年、米国は軍の募集を約13%近く伸ばした。一方、防衛企業のタレス(TCFP.PA)やレオナルド(LDOF.MI)は、今後数年で数万人規模の採用を計画している。大工、電気工、溶接工、配管工といった技能職も慢性的に不足し、賃金を押し上げている。マッキンゼーは2024年、技能職の賃金が2020年以降20%上昇したと示した。

他の業界の企業も若い働き手を呼び込もうと動く。日産自動車 (7201.T)、アマゾン(AMZN.O) 、シーメンス (SIEGn.DE)、アストラゼネカ (AZN.L)、ファイザー (PFE.N)などの企業は、見習い採用制度(アプレンティスシップ)の枠を広げている。狙いは、学生ローンの借金を抱えずに、より早く高収入のキャリアを始められる――そう候補者に信じさせることだ。大卒就職をめぐる最近の流れが続くなら、若者を説得するのに多くの努力は要らないのかもしれない。