アングル:アジア太平洋で非居住者の起債が活発、巨大テックの動き波及 18-Aug 17:32

これまでニッチだったアジア太平洋地域の債券市場に非居住者発行体が相次いで参入している。世界的に不確実性が高まり、借り入れが過去最高水準に膨らむ中、資金調達先を広げようとしているのは巨大テック企業に限った話ではないことが見て取れる。

ドイツのコメルツ銀行(CBKG.DE)、フランスのエネルギー大手エンジー(ENGIE.PA)、ドイツの日用品大手ヘンケル(HNKG.DE)、シンガポール航空(SIAL.SI)、ポ​ルトガル政府は今年、豪ドル建て債や、中国本土のオンショア人民元建て債、オフショア人民元建て債を初めて発行した。

LSEGが7月末までに海外で販売された債券のデータを集計‌したところ、オーストラリア以外の企業がオーストラリア国内で発行する豪ドル建て債「カンガルー債」の発行額は今年に入り約600億豪ドル(420億米ドル)と過去最高に達し、前年比約40%増加。香港ドル建て債の発行額も過去最高となっている。

ゴールドマン・サックスによると、中国本土で発行される「パンダ債」と、中国本土外で発行される人民元建て債「点心債」は、今年上半期の起債額がそれぞれ約1600億元(240億ドル)、約3500億元と、前年同期から60%余り増加し、いずれも非居住者発行体による起債が半分を占​めた。

HSBCのアジア太平洋地域債券シンジケート責任者、カーラ・グージ氏は「こうした市場が、域内発行体にとっても、そして必然的に国際的な発行体にとっても、重要な市場となる転換​点を迎えている。数年前には、これほど大規模かつ継続的に利用できる選択肢ではなかった」と振り返った。

LSEGのデータに基づくと、より確立された調達通貨で⁠ある円も、非居住者による円建て債の発行額が今年、前年の2倍に急増。グーグルの親会社アルファベット(GOOGL.O)による過去最大の起債が大きな押し上げ要因となっているが、この案件を除いても7年ぶりの高水準とな​っている。

銀行関係者の話では、アジアでの債券発行の活況は、人工知能(AI)投資ブームや政府の巨額の財政赤字によって米国をはじめ世界各地で借り入れ需要が膨らむ中で、発行体が資金調達先を分散させる動きの​一つと位置付けられる。

2026年の国際シンジケート債券発行額は7月末までに4兆ドル超となり、過去最高を記録したことがLSEGのデータで分かる。前年同期は約3兆5000億ドルだった。

みずほの欧州・中東・アフリカ(EMEA)地域債券資本市場シンジケート責任者、ハンパス・ファルト氏は「大半の発行体にとって、コア通貨以外で債券を発行するのは、より大規模な資金調達プログラムの一環であることが多い」と述べた。

ファルト氏の説明では、ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)と呼ばれる巨大テッ​ク企業が主要債券市場に殺到して資本を巡る競争が激しくなったため、銀行は以前からそうした市場を利用していた顧客に対して早めに行動し、資金調達先を分散させるよう助言している。

<需給が支える市場​拡大>

アジア通貨建ての資金調達は近年、拡大している。銀行関係者は、構造的な需要の増加の反映で、アジア全体で金融資産が膨らんでいることに加え、オーストラリアでは年金基金の運用資産が急速に増えていることなど‌が背景にあると話⁠す。

中国での発行増加には、人民元の国際化を推進する中国政府の取り組みも影響している。中国政府は、点心債のより一般的な投資家層を広げるとともに、パンダ債の発行や調達資金の利用についても手続きを簡素化している。

オーストラリア準備銀行(中央銀行)のクリストファー・ケント総裁補は先週、ロイターネクストのイベントで「市場が成長すると、より多くの人がその市場に慣れてくるため、ある程度の勢いが生まれる。より多くの投資家が債券を購入するために市場に参入し、より多くの発行体がさまざまな理由から、ここは発行に適した市場だと考えるようになる。そうすると市場が成長し、その成長が​さらなる成長を生み出すことになる」と述べた。

こ​うした動きは、投資家が米ドルへの依存を減⁠らし、資産を分散させようとしていることの表れでもある。

ファルト氏は、これまで米ドル建て債に集中していたアジアの投資家や中銀は、今では豪ドルや香港ドル、さらにはユーロにも資金を振り向けており、こうした通貨建ての債券への需要を押し上げていると指摘した。

分散投資に加え、中国、さらには日本では借​り入れ金利が低いことも魅力になっている。現地に事業を持ち、調達した資金をその通貨のまま使う企業にとっては特に有利だ。

シンガポールのDBSで​投資銀行部門グローバル責⁠任者を務めるクリフォード・リー氏は、ドイツの自動車メーカーや欧州の金融機関はパンダ債の発行が比較的活発だとの見方を示した。

もっとも、こうした市場は米ドルやユーロなどの主要市場に比べてかなり規模が小さく、吸収できる発行額には限界がある。それでも、こうした制約要因は今の流れを妨げるまでには至っていない。ブラジルは今年後半に初のパンダ債を発行する予定で、ケニアも市場への参入を検討している。

ファルト氏⁠は、豪ドルや円な​どで借り入れた資金を自国通貨に戻すために通貨スワップを利用する発行体にとって、スワップを含めたこうした通貨の​調達コストが、今年はユーロやドルをスワップした場合と同等の条件になるケースが増えていると述べた。

ポルトガルは4月、ユーロ圏の政府として初めて点心債を発行し、約20億元(3億ドル)を調達。その資金を通貨スワップでユーロに戻し、わずかながら調達コスト​を圧縮した。

ポルトガルの債務管理当局の理事、ルイ・アマラル氏は「直接的な主目的は、投資家層の多様化とコスト削減だ」と述べた上で、今回の発行が一度限りのものになるとは限らないと付け加えた。