アングル:欧州の中銀関係者、米国との協調維持に不安 市場介入に懸念 31-Aug 10:31

欧州の中央銀行関係者は、米西部ワイオミング州ジャクソンホールで開催された毎年恒例の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で米連邦準備理事会(FRB)関係者との交流を終えた後でも、国際協調の長年の慣行が維持されるとの安心感を得ることはできなかった。むしろ米国との緊張をはらんだ関係が今後さらに不安定化することへの懸念を強めているという。​協議内容を知る複数の関係者が明らかにした。

FRB当局者らは欧州側の不安を和らげようと努め、これまでの国際的な約束や協力関係は引き続き順守する考えを伝えた。だがFRBは政権か‌ら独立した機関であるため、トランプ大統領による突然の政策変更まで保証することはできない。ジャクソンホール会議に参加した複数の当局者の話に基づくと、その点が欧州側の大きな不安材料となっている。

特に懸念を呼んだのは、最近の米財務省による市場介入だった。財務省は円を支援するための為替介入を実施し、さらに米国の長期金利を引き下げる目的で国債市場への介入を強化。欧州の関係者はこうした措置が今後さらに異例の介入へ発展し、従来のルールや慣行が崩れる前兆ではないかと​警戒する。

1日の円買い介入後にベセント米財務長官は、財務省がユーロを売却して円を購入したことを認めた上で、アジア地域の中銀に対して「単なる資産配分の変更に過ぎない」と説明するとと​もに、28日には円買いの原資が財務省の外国為替安定基金(ESF)の資産だったと述べた。

しかし欧州の関係者が特に不満を抱いたのは、米国がユーロ売却を伴う取引であるこ⁠とを事前に通知しなかったことだ。通常こうした取引では関係国に一報を入れるのが慣例とされている。

ある関係者は「本当に腹立たしかった。こういう場合は必ず電話を1本入れて事前に知らせるものだ。今回の件から​受け取ったメッセージは、米国は自分たちのやりたいように行動するということだ」と苦り切る。

もっとも今回の取引自体が極めて異例だったため、単なる手続き上の見落としだった可能性もあるとして、米国側に一定の​理解を示す関係者もいた。

欧州中央銀行(ECB)とFRBの広報担当者はコメントを拒否した。

米政府高官の1人は、日米による円支援介入が為替市場の無秩序な変動を抑え、国際金融市場の安定を維持するための措置だったと説明。「これは特定の国を標的にしたものではない。財務省は各国当局と継続的かつ緊密に意思疎通を行っているが、個別協議の詳細についてはコメントしない」と述べた。

<米長期国債買い戻し巡る警戒感>

関係者によると、ベセント氏が進める長期国債の買い戻し拡大策も欧州の中央銀行関係者を​不安にさせている。短期国債の増発によって資金を調達しながら長期債を買い戻すこの取り組みは、円買い介入と同様に、政権が借入コストの抑制に向けて異例の手段を取る意思を示していると受け止められている​ためだ。

ある関係者は「市場介入による効果は通常、一時的に過ぎない。しかし政権が明らかに長期金利の上昇を懸念していることは分かる。次は何をするのか。FRBに市場から国債を買わせるよう圧力をかけるのだろうか」と疑念を口‌にした。

FRBは米国で唯一⁠の金融政策決定機関で、本来は政権から独立している。ただ関係者らは、トランプ氏が自身の意向を実現するために異例の手段を取ることも辞さない姿勢を示していると指摘し、そうした動きが進めば米国だけでなく、世界の金融市場全体に大きな混乱をもたらしかねないと危惧している。

これに対し先の米政府高官は、長期国債の買い戻し拡大は流動性向上が目的で、良好な条件で買い戻しが可能な長期債市場を支援するためだと従来の説明を繰り返しつつ「これは金融政策ではなく、金利に上限を設けるための措置でもない」と強調した。

もっとも27日には別の財務省高官が記者団に「長期金利を引き下げることに重点を置いている。(その理由は)現在の長期金利​は財務省が考える適正水準を上回っているためだ」​と発言している。

<スワップ協定にも不安感>

さらに欧州側⁠には、政治的な介入がやがてFRBによるドル流動性供給網にまで及ぶのではないかとの懸念もある。このドルスワップ協定は、各国の大手銀行が金融危機や市場混乱時でも米ドル資金を確保できるようにする仕組みであり、世界の金融システムの安定を支える重要な柱とみなされている。

FRBは毎年この枠組みを更新。海外の銀行がドル​不足に陥れば、保有する米国債を大量に売却せざるを得なくなり、それが米国市場にも悪影響を及ぼすため、この制度は米国自身の利益にもつながると​考えられている。

ところが別の関⁠係者は「この政権では必ずしも合理性が優先されるとは限らない。最も親しい同盟国に対してさえ報復的な通商政策を取るのだから、トランプ氏が『彼らはわれわれを利用している』と言い出せば、ドルスワップ協定も一夜にして消えかねない」と明かす。

とはいえ関係者らは、現時点でこうした安全網が危険にさらされている兆候は全くなく、今後も維持されるとみている。ドルスワップ協定は連邦公開市場委員会(FOMC)が正式に承認し、運営もFRBが独自に行っている以⁠上、政権が直接関​与する領域ではない。

米財務省高官も「FRBの各種制度やスワップ協定に関する決定権はFRBにある。円支援策や国債買い戻し策がその権限に影​響を与えることを示すものではない」と明言した。

こうした中でFRBのウォーシュ議長は就任から1カ月余りで欧州を訪問し、欧州当局者との関係強化に積極的に取り組んだ。その姿勢は概ね好意的に受け止められたという。

またFRB議長として初めて臨んだ今回のジャクソンホール会議では、​カナダ銀行(中央銀行)のマックレム総裁と慣例通り記念撮影にも応じた。トランプ政権がカナダとの激しい通商対立を続ける状況において、この行動はささやかだが、なお象徴的な意味を持つと受け止められている。