コラム:問われるベセント氏の信認、市場介入は小手先との批判も 25-Aug 10:09

スコット・ベセント氏が第79代米財務長官に指名された際、金融市場はほぼ満場一致で歓迎した。長年にわたって債券・為替市場で活躍してきた同氏は、ウォール街の声をワシントンに届ける存在であり、トランプ大統領の財政赤字拡大志向に対する防波堤になると期待されていた。

しかし第2次トランプ政権が発足してから2年が近づこうとしている今、その現実は当初の期待とは大き​く異なっており、結果的にベセント氏の信頼性にも疑問符が付き始めている。

この1年、米連邦準備理事会(FRB)の上空には「信認への懸念」が漂っていた。背景にあったのはトラ‌ンプ氏の影響力や介入によってFRBの独立性が損なわれるのではないかという不安だ。さらにトランプ氏が指名したケビン・ウォーシュ氏が3カ月前にFRB議長へ就任して以降、その懸念は一段と強まった。投資家の間では、ウォーシュ氏がインフレを目標水準まで抑えるために必要な利上げを実施する意思を持っているのか、さらにはFRBの2%インフレ目標そのものを維持する考えがあるのかさえ疑問視されている。

そして足元では、金融政策を担うFRBだけでなく、財政運営を行う財務省にも厳しい視線が向けら​れるようになった。最近のベセント氏による為替市場や債券市場への予想外の介入は、一貫した長期戦略の一部というよりも、目先の問題をその場しのぎで解決しようとする対応のよ​うに映っている。市場もその点を見逃していない。

典型的なのは、先週の財務省による長期国債買い戻し額の少なくとも倍増という発表に対する市場の反応だ⁠った。インフレ連動スワップレートで示される市場のインフレ期待は急上昇し、金や暗号資産の価格も上昇した一方、ドルは下落した。国債利回りは当初こそ低下したものの、その後は反転上昇し、最​近の歴史的高水準に再び接近した。特に目立つのは、ベセント氏が最も重視してきた10年国債利回りの上昇だ。

トランプ氏が2024年11月にベセント氏を財務長官に指名した当時、10年債利回りは約4.20%だった。現在は4.75%近辺まで上昇しており、心理的な​節目とされる5%に迫っている。住宅ローン、クレジットカード金利、企業の借入コストの基準となる10年債利回りを抑制することは、ベセント氏が就任時に掲げた主要目標の1つだったのだが、同氏自身の評価基準で見ても、その目標達成には程遠い状況にある。

RBCグローバル・アセット・マネジメントのマーク・ダウディング最高投資責任者(CIO)は21日付レポートで「借入コスト上昇という歓迎できない動きを何とかしろと、上司(トランプ氏)から耳元で怒鳴られている姿は容易に想像できる」​と述べ、ベセント氏の難しい立場に言及した。

トランプ氏の支持率は、最近のロイター調査で33%まで低下しており、過去最低水準となっている。さらに議会中間選挙まで残された時間はわずか2カ月しかない。

もっと​もベセント氏にとっての問題は、その権限が極めて限定的であることだ。イールドカーブに対する影響力には限界があり、政府支出を本当に左右できる人物はワシントンに1人しかおらず、その人物は財務長官ではない。

<無駄をなく‌す政策の現実⁠味>

トランプ氏は財政赤字削減に強い意欲を示しているようには見えない。議会予算局(CBO)の予測に基づくと、26会計年度の財政赤字は国内総生産(GDP)比で約6.6%に達する可能性がある。これは景気後退、金融危機、コロナ禍、あるいは戦時下を除けば、過去でも有数の大幅な赤字水準だ。

ベセント氏は21日のCNBCとのインタビューで「財政赤字は既にピークを打った可能性が高い」と述べた上で、政府支出に潜む無駄や不正、不適切な支出を削減することで「数千億ドル規模」の節約が可能だとの見方も示した。

多分そうかもしれない。だがトランプ政権は以前にも同じような試みを行っており、結果は決して芳しいものではなかった。

政府効率化省(DOGE)を覚えてい​るだろうか。実業家イーロン・マスク氏は昨年初​め、大々的な注目を集めながらDOGEの責任者に就任し、政⁠府の「無駄」を削減するために大きな権限を与えられた。しかし最終的にDOGEが達成を主張した節減額は2150億ドルにとどまり、これは昨年度連邦予算の約3%に過ぎなかった。しかもこの数字自体についても強い疑問が投げかけられている。超党派機関である政府監査院(GAO)は「報告された節減額には透明性と信頼性を損なう​複数の問題が存在する」と指摘した。

どの政権も無駄な支出をなくすと約束する。それは非常に分かりやすく、国民受けの良い主張だからだ。政府の​効率化を望まない人などほとん⁠どいないし、このような主張は財政赤字を比較的「痛みの少ない方法」で削減できるかのような印象を与える。

現実には、社会保障などの給付制度に対する大幅な歳出削減や増税が必要になる公算が大きいのだが、そのどちらも大統領が積極的に訴えたい政策ではない。そのため、新たな「財政健全化計画」が打ち出されたとしても、それは悪化し続ける大きな傷口に貼る絆創膏ほどの効果しか持たないだろう。

トランプ氏とベセント氏は、自ら⁠の政権が世界​最強の経済、低下するインフレ、縮小する財政赤字、そしてイランに対する完全勝利を実現していると非常に強気な姿勢​を打ち出している。しかし大統領支持率が過去最低水準に落ち込んでいることからは、有権者がそうした主張を以前ほど信じなくなっている状況が読み取れる。また最近の市場の動きで、投資家の側でもその説明に対する信頼が薄れつつある可能性がうか​がえる。

もしそうした信任低下が事実なら、ベセント氏が直面する問題は、まだ始まったばかりなのかもしれない。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)