コラム:日米協調介入が告げる円高への転換、円安派は今こそ見直しの時 26-Aug 11:41

今月上旬の円高誘導を目的とした日米協調介入は外国為替市場の転換点となり、円の市場予想を再調整するきっかけとなった。今後数年間に円高へ大きく振れる公算が大きい。

米財務省が日本とともに協調介入に踏み切ったのは2011年以来となり、日本の財務省と協調して円を購入したのは1998年以来のことだ。

この動きは市場に大きな影響を与えた。円は対ドルで1ドル=158円前後で推移しているが、7月下旬には1ドル=164円近くを付けていた。

結局のところ、こ​れらの措置は「防御的」なものだった。それは単に円安の進行を食い止めるのに役立ったに過ぎない。真の円高ドル安傾向をもたらし、日本の機関投資家に資本の国外流出を控えるよ‌う説得するためには、日本の財務省はより攻勢的な姿勢を示す必要があるだろう。

問題は、財務省にそれができるかどうかだ。ただし、米国と連携したことは、日本が状況の転換を図るために必要なあらゆる措置を繰り出す用意があるというシグナルとなるかもしれない。

<なぜ今なのか>

過去4年間、円安は日本で長らく望まれていたインフレをもたらし、企業利益を押し上げ、国内株式市場の大幅上昇を支えてきた。これは素晴らしいことではないか。それではなぜ、日本は円安を懸念すべきなのか。

通貨安は、その国の輸出競争力を高​めるという点で魅力的に聞こえるかもしれない。だが、長期的には競争力のない企業行動を助長したり、貿易収支をゆがめたりするなどの非効率性を生み出す可能性がある。

資本流動への影響も懸念​される。通貨安が予想される場合、国内資産の保有による損失を見越して、資本の国外流出を招くからだ。

さらに、通貨が過度に下落すると、債券市場の混乱、消⁠費低迷、設備投資の急減といった危険な状況に陥るリスクがある。2022年以降に円が対ドルで急激に下落したことを踏まえると、日本はこのリスクに直面している。

もちろん、日本による為替市場への介入にも危険がはらむ。(金​利が低い通貨を調達し、金利が高い通貨や資産に投資することで、その金利差から収益を得る)キャリートレードで円の残高が膨大であることを踏まえると、政府による通貨支援策がポジション解消や、資金還流の雪崩を引​き起こす可能性がある。

しかし、日本政府にとって現状維持では持続不可能なため、このリスクは取る価値があるかもしれない。

<米国にとってのメリットは>

米国側の論理はどうなっているのだろうか。

ベセント財務長官は、今回の共同介入の動機が主に金融安定への懸念にあることを示唆した。ベセント氏は今回の状況が、1997―98年にドルが対円で絶え間なく上昇したことがアジア通貨危機の引き金の一つとなった時期をほうふつとさせると指摘した。

しかしながら、私は動機がもう一つあるのではないかと疑っている。それは、米国の製造業の​競争力を強化したいという願望だ。

米国の雇用を創出し、国家安全保障を確保するために、一定規模の製造業を米国内に回帰させることがトランプ政権の最優先目標であることは自明だ。この目的を達成するためには、ド​ルが下落することが必要となる。

だが、課題となるのは世界が保有する債券、株式両方のドル建て資産を損なうことなく、ドル安へと誘導することにある。

その一つの方法は、将来のドル安に対する一般的な期待感を抱かせずに、ドルの価値を少し‌ずつ削っていくよ⁠うな小規模な(ドル高是正のための国際間政策協調)「マールアラーゴ合意」をいくつか仕組むことだ。

市場を驚かせる「小幅な急変」を続けることでドルがさらに下落するとの予想を生み出すことなく、時間をかけてドルの価値を徐々に引き下げることができるだろう。

もしもそうなれば、今月上旬のようなサプライズは今後2年間でより頻繁に起こるかもしれない。

<うまくいくのか>

過度な円安は日米両国にとって明らかに逆効果であり、双方が何らかの形でドルを対円で下落させるように働きかける強い動機となっている。

問題は、日本にとって戦い続けるための「弾薬」があるかどうかだ。

最新の介入を完全には反映していない日本の最新の公式統計によると、今年7月時点で財務省の流動性のある外貨準備高は約1兆1000億ド​ルだった。

この大半が現金のような形か、米国債の形で既に​ドル建てになっていると仮定すれば、これは1日当た⁠りの円取引高の約56%に相当する。

こうした巨額の外貨準備高は、金融不安に対する戦略的な緩衝材ではなく、単に財務省による防衛的な為替介入の結果に過ぎない。したがって、この保有高の一部を売却しても、日本が金融上の危険にさらされることはないはずだ。

もちろん、1300億ドル規模を超える為替介入を実施する場合、日本は大量の米国債の売​却を始めなければならないことになる。これは米国債利回りの上昇に対する現在の懸念を踏まえると、米国が反対する可能性がある措置だ。

これを回避するために​は、日本は米連邦準備理事会(FRB)⁠と「外国・国際通貨当局(FIMA)向けレポ・ファシリティー」の拡大で合意するなど例外的な取り決めが必要になるだろう。ベセント氏は、独創的な解決策を提示してくれるだろうか。

FIMA向けレポ・ファシリティーの活用を日本に促した今回の介入は、その答えがイエスであることを示唆している。

未解決の疑問がもう一つ残っている。インフレ率が高止まりしても日銀が金融引き締めを遅らせ続けた場合、円は上昇するのだろうか。最近の経緯はイエスであることを示唆している。

日本が今回⁠の局面で円買​いドル売りの為替介入に乗り出したのは、FRBが利上げを始めた2022年のことだった。FRBが24年9月以降に政策金利を計2%ポイント弱引き下げたのに対し、日銀は計0.75%ポイント利上​げした。2.5―3%ポイントに縮小した金利差は、ドル円相場に目立った影響を与えていないようだ。

したがって、日銀のタカ派的な姿勢は円高ドル安の必要条件、あるいは十分条件であるとは言い切れない。

結局のところ、今回の協調介入が伝える最も重要なメッセージは、日米両国の決意にあ​るのかもしれない。両国とも市場に屈したり、譲歩したりする気はないようだ。投資家はこれに抵抗しても無駄かもしれない。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)