日銀が9月の金融政策決定会合で利上げの是非を議論する見通しとなる中、市場では0.5%の利上げを予想する声が出ている。高田創審議委員の発言をきっかけに観測が強まったが、日銀内ではそこまでの利上げは不要との見方が多い。複数の関係筋によると、物価が想定通りに推移しているうえ、これまでの段階的な利上げが家計や企業に及ぼす影響を見極める必要があるためだ。
日銀が前回0.5%の利上げを実施したのは1989年12月。日本はバブル経済のピークにあり、皇居の地価がカリフォルニア州全体の地価を上回るとも言われた。バブルはその後崩壊し、日本は「失われた30年」に突入した。それから37年を経た今、当時ほどインフレ圧力は強くないものの、市場では日銀が9月17━18日の会合で0.5%の利上げに踏み切る可能性を探る動きが出ている。
日銀に利上げを促すようなベセント米財務長官の発言に加え、高田審議委員が利上げに積極的な情報発信をしたことで、市場が織り込む利上げ確率は9月7日午後時点で99%まで上昇した。特に高田氏が2日の記者会見で、利上げ幅は0.25%に決まっているものではないと話したことが9月会合の思惑につながり、0.25%ではなく0.5%の利上げに踏み切るとの見方が一部投資家の間で広がった。
関係筋によると、日銀は9月の会合で利上げの是非を検討する。しかし、複数の関係筋によると、利上げを決めた場合でも通常通り0.25%にとどめる可能性が高い。超低金利に長年慣れた市場への影響を抑えつつ、借り入れコスト上昇が企業活動や家計に及ぼす影響を見極める時間を確保するためだという。
植田和男総裁は1日、20カ国(G20)財務相・中央銀行会議のために訪問した米ノースカロライナ州で記者会見し、経済・物価情勢は7月時点の見通しに沿っておおむね推移しているとの認識を示した。就任以降5回実施してきた利上げに触れ、「影響は常に少しずつ累積的に出てくるという面があるので、慎重にみていきたい」 とも話した。
<円安の是正も利上げ幅の判断に影響>
一方、関係筋によると、日銀は年後半にかけて消費者物価上昇率が再び高まると予想しているものの、急激な金融引き締めを必要とするほど差し迫ったインフレ圧力は確認されていない。物価の上振れリスクが一段と高まっている状況でもなく、新たな上振れ要因が浮上している状況でもないとみている。
7月下旬に1ドル=164円近くまで円安が進んだ円相場が持ち直し、足元152円台まで円高が進んでいることも、大幅な利上げの必要性を後退させている。
関係筋の一人は「年内にさらに2回程度の利上げが可能なら、一度に50ベーシスポイント(bp、0.5%)引き上げる必要はない」と指摘した。別の関係筋も「最近の経済指標からは、大幅利上げを正当化するほどインフレが加速している状況は見て取れない」と語った。
もっとも、長引く中東情勢や人手不足に伴う賃金上昇、円安による輸入物価上昇などを背景に、利上げペースを現在より速め、四半期に1回程度へ引き上げることも視野に入れていることがこれまでの取材で分かっている。日銀は7月の決定会合時に公表した展望リポートで、物価の上振れ要因として、中東情勢の緊迫化に起因する諸コスト上昇の価格転嫁、AI(人工知能)関連需要の高まり、為替の変動を挙げた。
<後手に回ったと取られるリスク>
そうした環境下だからこそ、9月の大幅利上げは避けるべきだとの見方もある。市場参加者の間では、日銀が0.5%の利上げを実施した場合、インフレ対応で後手に回っていたとの印象を与えかねないとの指摘が出ている。
日銀出身で、楽天証券経済研究所の愛宕伸康チーフエコノミストは「無理に50bpの利上げをすれば、日銀が焦っているとみなされ、ビハインド・ザ・カーブのリスクに市場の関心がむしろ高まってしまう恐れがある」と分析。「日銀はおそらく9月に利上げした後、再度12月か1月に25bp利上げするだろう。あくまで物価上振れリスクへの対応という形での利上げになる」と語る。
野村証券の岩下真理エグゼクティブ金利ストラテジストは「(政策金利が中立金利ゾーンに近づく中)これまでよりも、判断に慎重さが増す政策委員会のメンバーがいてもおかしくはない。前のめりになっている市場との温度差が徐々に見えてくる可能性はある」としたうえで、「当面は25bp幅の利上げで、ペースの調整となろう」 と話す。
(和田崇彦、木原麗花 編集:久保信博)