英国某所。幹線道路と港に近い工業団地の格納庫の中で、大型カヌーを思わせる流線型のガラス繊維製の船体が海軍グレーに塗装され、近くに並べられたエンジンユニットや各種ハイテクシステムの取り付けを待っている。
ウクライナでは、これと同じような無人攻撃艇が、ロシア黒海艦隊を近海からほぼ駆逐することに成功している。その多くは元々、ウクライナ特殊部隊と情報機関がこうした任務に特化して製造したものだ。
イスラエルおよび米国とイランとの戦闘が中東全域に拡大した場合、これら英国製の新型艇の一部が実戦に投入される可能性がある。
こうした艦艇は、捜索・救難活動など「危険で単調かつ過酷」な任務のほか、海戦の未来を担う存在として注目が高まっている。
<機動力ある新興企業>
目立たない場所にあるこの製造施設は、急成長中の英防衛企業クラーケンのものだ。同社は今年、英海軍向けに小型攻撃艇20隻を第一弾として供給する契約を締結したほか、米特殊作戦軍および米海軍とも契約を結んでいる。
こうした企業がベンチャーキャピタルの資金を得て世界各地で相次いで誕生している。これらの企業が手がけるのは、中国による台湾侵攻阻止やバルト海で北大西洋条約機構(NATO)とロシアが衝突した場合に鍵となる自律型攻撃艇だけではなく、多様な無人システムだ。
クラーケンをはじめとするこの分野の関係者は、湾岸での海洋ドローン攻撃の成功を伝える最近の報道が使命感を高めていると話す。西側民主主義国家が戦争を抑止するためには、戦闘に備えるとともに、自国の人的被害を最小化する手段を確保しておかなければならない、という意識だ。
クラーケンは現在、複数の海洋ドローンを展開しており、全長8.5メートルの「スカウト・ミディアム」が最も人気が高く量産化しやすいモデルとされている。ただし、同社は自社の艦艇が中東または黒海で実戦使用されたかどうかについては明らかにしていない。
米軍は、湾岸周辺での最近の作戦において、メリーランド州の企業ブラックシーが開発した小型無人水上艇「GARC」などの艦艇を実際に配備したと発表している。
中東での米軍作戦を統括する米中央軍は、この10年の大半にわたってこうした無人艦艇の試験運用を続けてきた。欧州各国もNATOの「タスクフォースX・バルティック」を通じて独自の技術と運用能力を磨いており、海底ケーブルなどのインフラへの干渉が疑われるロシア艦船などの追跡にも当たっている。
完全自律型であれ、スターリンクなどの衛星通信システムを介した遠隔操縦型であれ、こうした艦艇は監視カメラや機関銃、あるいは大型艦を撃沈するのに十分な爆発物など、さまざまな兵器などを搭載できる。イランは商船への攻撃に少なくとも2隻のこうした艦艇を使用したとみられており、海戦がいかに急速に変貌しているかを示している。
<有人・無人、両方の運用に対応>
ウクライナと湾岸では激しい電子妨害が行われており、遠隔操縦システムの稼働維持をめぐる攻防が続いている。このため、通信リンクを必要としない自律型システムの開発に注目が集まっている。
ただし、これははるかに困難な課題だ。ロイターをはじめ複数のメディアは昨年、無人運用を実現しようとする試みにおいて複数の問題が生じたと報じている。もっとも、黒海やバルト海のような係争水域では、それも驚くべきことではないと関係者は語る。
英メディアの報道によれば、英海軍補助艦隊の水陸両用補給艦ライムベイが湾岸での機雷除去任務に向けた海洋ドローンを搭載する予定とされている。だがそれは、紛争が終結し、当該水域の環境が艦艇にとってより安全になってからになる見通しだ。
この任務が実施されれば、財政難にあえぐ英海軍に稼働中の艦艇がいかに少ないかを示すとともに、技術革新が軍事のあり方を変えつつあることの証左ともなろう。
現時点では、クラーケンのような企業が建造する艦艇が従来型の軍艦を完全に代替するとは誰も考えていない。トランプ米大統領が誇示する空母や海兵隊強襲揚陸艦を含む「艦隊」は、今回は被害リスクを最小化するため戦闘区域から距離を取っているとはいえ、依然として強力な戦闘力を示している。
しかし、クラーケンのような企業が安価かつ大量に新型艦艇を生産するスピードは目覚ましく、その野心の規模も大きい。同社は今年中に最大500隻の遠隔操縦艦艇を納入できるとしており、2027年にはその倍を目指すという。ドイツや環太平洋地域の造船所との提携もその一翼を担う。
クラーケン創業者のマル・クリース氏は、自動車レースF1や高性能オフショア・パワーボートに携わった経歴を持つ。それらのモデルを並べた執務室で、クリース氏は、自らの経験を生かして海洋オフショアシステムの主要メーカーを目指す構想を語った。
ウクライナの教訓を学ぶことも、そのプロセスの一環だ。紛争の少ない環境でいかに艦艇を量産するかを模索することも重要だという。
「紛争地帯で品質の高いスケーラブルな製品を製造・納入することには明らかに困難が伴う」と同氏は語った。
<モジュール構造の利点>
クラーケンのチームに今可能なのは、量産化できるモジュール部品を「スーパーカーのように」手作業で迅速に組み立て、多種類の艦艇を建造するというアプローチだ。
このシステムの利点は、迅速なスケールアップが可能な点だとクリース氏は言う。英国では特に、今後の防衛費のあり方には大きな不透明感が漂う。長年公約されてきた「防衛投資計画」は未公表で、英メディアは首相と財務省の間で必要な予算規模をめぐる意見の相違が続いていると報じている。
英政府の動向がどうあれ、より大きな潮流はますます明確になっている。多くの企業は自国政府に対して特定の技術を「国産」として保護・限定すると約束する一方で、海外での製造契約も積極的に締結している。
こうした新興企業は、米ロッキード・マーティンや英BAEシステムズ、伊レオナルドといった既存の「防衛大手」とは大きく異なる。これら大手は、巨額の兵器システム開発に長い開発期間と莫大な超過コストがかかることで知られている。
クラーケンや英ケンブリッジ・エアロスペース、米国の攻撃ドローン企業ネロス・テクノロジーズ、独ヘルシングといった新興企業の多くは規模が小さく、ここ2年ほどの間に設立されたばかりだ。分析・標的指定分野で存在感を増す米パランティアやアンデュリルといった、わずかに歴史の古い「防衛テック」の巨人たちと比べても、はるかに歴史が浅い。
人工知能(AI)と分析のみに焦点を当てる新しい企業は、一般に入手可能なAI製品に追い抜かれるリスクがあると言える。だが実際の兵器システム、特に迅速かつ安価に製造できるシステムを手がける企業は、買い手を継続的に確保できるという確信を強めている。
クラーケンの地元採用スタッフが無人高速艇の製造に取り組む様子を眺めながら、こうした光景が平時の英国では1930年代後半や第二次世界大戦直前の切迫した時期以来ほとんど見られなかったことに気づかされた。現時点では規模は小さいが、それは今後、急速に変わるかもしれない。
こうした企業で働く元軍人の多くは、ウクライナをはじめ、さまざまな国のクライアントと相当な時間を共に過ごしている。そして、自国の備えが不十分だと感じるケースも出てきている。
米国によるイランへの攻撃作戦が始まって以降の報道によると、巡航ミサイル「トマホーク」や地対空ミサイル「パトリオット」などの高価なミサイルは不足している。一方、ドローンメーカーは年間数十万から数百万単位のシステムを納入できるとしている。
この新たな現実をいち早く理解した国として、ウクライナが挙げられるのは当然かもしれない。ゼレンスキー大統領は先週、中東を歴訪し、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)に対してドローン攻撃や防衛システムの技術提供を提案した。
戦火から遠い西側諸国の対応は遅れているが、時間的余裕はそれほど残されていないかもしれない。一方、それらの国々の一部企業は、すでに独自のペースで動き出している。