コラム:変わるエネルギー貿易地図、安全保障重視の代償はコストと効率性 04-Sep 11:36

輸送距離やコストの最適化を重視して構築されてきた従来のエネルギー貿易ルートは、分断と対立が進む今日の世界においてもはや最適とは言えなくなってきた。特に新たな供給網の構築を迫られているのは、エネルギー輸入大国だ。

イランを巡る緊張の長期化を受け、多くの主要石油輸入国は代替供給ルートの開発を進めており、​これまで世界のエネルギー取引を支えてきた中東の主要供給拠点を経由しない調達が増加。その結果として、世界のエネルギー貿易は過去数十年間のよ‌うな集中型ネットワークから、より分散化された供給網へと移行しつつある。新たなルートは輸送期間が長く、コストも高くなるが、期待されるのは地政学的リスクへの依存を減らし、エネルギー安全保障を高める効果だ。

<より遠距離に>

こうした変化は、日本の原油調達構成の変化によく表れている。世界第5位の原油輸入国である日本は、米国・イスラエルとイランの戦争によってホルムズ海峡を通過するタンカーの通航量が急減するまで、​原油輸入の90%超を中東に依存していた。

長年にわたって日本にとって大量かつ安定的な供給源となってきたのはサウジアラビア、イラク、イランといった産油国で、これらの国​からの原油は、日本の沿岸製油所まで比較的単純な約21日間の航海で輸送することができた。

ところが戦争の影響で湾岸地域からの輸出が2月下旬以降⁠大きく混乱。ケプラーによると、中東からの世界全体への原油出荷量は3月から7月にかけて前年同期比40%減となった。

この急激な供給減少を受け、日本は代替調達先の確保を余儀なくされ、とりわけ​北米からの調達を大幅に増やした。3月から6月までの日本の米国産原油輸入量は450万トンを超え、前年同期の100万トン未満から大きく増加。400%を超える米国産原油の増加により、日本の輸入業者は中東からの輸​入量が54%減少した影響をある程度相殺し、全体としての原油供給減少を抑えることができた。

もっとも、米国産原油への切り替えには代償も伴う。米国から日本までの輸送には中東ルートよりも約9日長い航海を余儀なくされ、輸送コストが大幅に上昇する。製油所側も輸送日数の変化に対応した新たな受入計画を策定しなければならない。同様の動きは韓国やインドでも見られる。いずれも世界有数の原油輸入国で、中東からの供給​減少を補うため、中南米やアフリカからの輸入を拡大している。

一方、世界最大の原油輸入国である中国は、これまで戦略備蓄を活用することでイラン情勢の影響を緩和してきた。しかし長​期間にわたる備蓄取り崩しの後、中国は年後半に向けて輸入を再び積み増すと見込まれ、その際には中南米などの代替供給源を巡る競争が一段と激化しそうだ。

<輸出国に広がる商機>

こうした需要構造の変化‌は、原油輸出⁠国にとって追い風となるだろう。

中東以外の供給源に世界の需要が集中した第2・四半期に、米国の原油輸出量は過去最高の6160万トンに達した。これは前年同期比43%増え、過去の四半期ベース最高記録を1000万トン余り上回る水準だった。

記録的な輸出増を達成したのは米国だけではない。ブラジル、アルゼンチン、ガイアナ、ロシアも今年これまでで過去最高水準の輸出を記録しており、中東産原油の不足を補う需要の恩恵を受けている。

これらの国々の中には、多くの主要輸入国にとって新たな調査先となった国も含まれるし、これほど多様な市場に対して継続的に大量供給した経験を持たない国もあ​る。

例えばブラジルからインドへの原油輸出量​は、今年上半期に前年同期比で約3倍へ拡大⁠し、インド向けとして過去最高を記録した。

その代わりに輸送距離は大幅に伸びる。中東の主要積み出し港であるアラブ首長国連邦(UAE)のフジャイラやサウジのラスタヌラからインド西岸までは通常3-5日で到着するが、ブラジルのアクー港から同じインド西岸までの輸送には約25日を要する。

それで​も輸入国の立場から見れば、調達先を多様化することでサプライチェーンの強じん性を高めることができるため、追加コストを受​け入れる価値があると考え⁠られている。

さらに米国やアフリカの一部輸出国は、重要な海上輸送の制約地点を回避できるルートを利用できる点でも魅力がある。今年はホルムズ海峡だけでなく、地政学的緊張の高まりによってスエズ運河の通航量も減少したほか、パナマ運河では深刻な干ばつにより水位が低下し、船舶の積載量制限を余儀なくされた。

こうした状況において主要輸入国は新たな供給国との取引に慣れつつあり、中⁠東情勢への不​安が続く限り、今後も一定量の調達を維持するだろう。

このような購買行動の変化によって、世界のエネルギー貿易地​図は大きく書き換えられている。新たな供給網は従来よりも分散化され、効率性は低下し、コストも高い。だが地政学的な不確実性が常態化する時代にあっては、効率性よりも供給網の冗長性と安全保障が重要になりつつある。​そして冗長性を確保するためには、より遠回りの輸送ルートを受け入れなければならない。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)