年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用原資300兆円の行方が再び脚光を浴びている。「脱国債」を掲げた2014年の運用改革と逆行し、国内回帰の是非が焦点。ただ、政府内には温度差もあり、今のところ着地に向けた議論は見通せない。市場では、円安・債券安に歯止めをかける口先介入に過ぎないとの見方も出ている。
<首相も追随>
「日本国債は20年物、30年物いずれも3%台後半、40年物は4%台が付いている。年金積立金は半分が海外に投資されているが、日本国債で運用することも考えられるのではないか」。17日の参院予算委員会では、参政党の安藤裕幹事長がGPIFの運用姿勢をただす場面があった。
海外への投資は予期できない株価下落や為替リスクを伴う。一方、日本国債であれば「安定的に名目収益を確保できる」とする安藤氏の主張に対し、高市早苗首相は「年金基金による日本の金融資産へのさらなる投資を後押しする方策を追求する」と応じた。
年金勢の国内投資拡大を示唆した片山さつき財務相兼金融相の発言から1週間余り。26年3月末時点で293兆6437億円という巨額資産を抱えるGPIFの運用見直しの是非は今後、波紋を広げそうだ。
国内外の株式や債券にそれぞれ25%ずつ配分する今のスタイルを数パーセント変えるだけでも、10兆円規模の資金が動く。見直しに向けては丁寧な議論が求められるだけに、片山氏の発言は「GPIFの運用のあり方について議論しようという、キックオフ宣言と受け止めている」(関係者)との声が、政府内にはある。
この日閣議決定した首相肝入りの成長戦略では、国内投資拡大を柱とする1100兆円経済への道筋が示された。一方、GPIFの運用資金の半分が海外に向かう現状には「日本で長期資金が不足する不安がある」(クレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミスト)との声がくすぶる。
基本ポートフォリオを巡り「国債を中心とする国内債券の割合を25%から大幅に増やすことは合理的」と、前出の会田氏は指摘する。
<漂う不透明感>
とはいえ、一足飛びに基本ポートフォリオの見直しにこぎ着けるかは、依然として不透明感が漂う。
年金運用を所管する厚生労働省は、指針の前提となる運用環境が乖離した状況にはないとの立場を崩していない。前出と別の関係者は「直ちに見直しが必要とは考えていない」と語る。
ポートフォリオそのものは見直さず、上下の振れを容認する乖離許容幅を活用する案も取りざたされる。
「十把ひとからげに25%とする運用が妥当かは疑問」(前出とさらに別の関係者)との声が広がりをみせ、乖離幅を活用して最大比率を許容すれば、国内資産の運用比率は最大で60%強となる。「25年度末比で約31兆円の追加配分が期待され、最も機動的な手段」(第一ライフ資産運用経済研究所の奥田宏二・主任研究員)との見方がある。
ただ、乖離幅は一時的な市場の振れへのセーフティーネットとの位置付けで、特定資産の積み増しを想定したものではない。運用資産の国内回帰を図る上では「専ら被保険者の利益」を追求する姿勢との整合性に課題が残る。
<一時は材料視>
市場は、国内投資拡大を示唆する発言を材料視し、一時は円安・債券安の進行に歯止めがかかった。「骨太ショック」を受けて長期金利は一時3%をうかがう展開も予想されたが、失速した。
ただ、21日の東京市場では、為替が1ドル=162円台半ばで推移。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りも2.7%台前半と、戻りは鈍い。
市場では「数カ月前に25%ずつと決めたばかりの指針を見直すだけの理由は見当たらず、(GPIFの運用見直しは)相応にハードルが高い」(民間シンクタンク)との声が根強い。
「実現に向けたハードルはあるが、とりあえず円安・債券安の同時発生を抑えるための新手の口先介入として活用したのではないか」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志・主席エコノミスト)との声も出ている。