カナダからアルゼンチンに至る米州の産油国は、イラン戦争のさなか、中東の輸出国が失った市場シェアを取り込み、想定外の利益を得てきた。世界的にエネルギー安全保障への関心が再び高まるなか、こうした緊急対応は、長期的な構造変化へとつながる可能性がある。
半年前にイラン戦争が始まり、ホルムズ海峡が封鎖され、世界の石油供給の約5分の1が混乱して以降、米州の石油生産は中東の膨大な石油・ガス資源に代わる現実的な選択肢となった。この転換は、ここ数十年で世界のエネルギー情勢が経験した最も顕著な変化の一つだ。
ホルムズ海峡の封鎖は、失われた中東産原油を補う動きを即座に引き起こし、米州が最大の受益者として浮上した。
エネルギー市場分析会社ケプラーのデータによると、北はカナダから南はアルゼンチンに至る米州地域の原油輸出は、2026年に入ってこれまでのところ、日量平均1170万バレルと過去最高に増えた。25年の1030万バレルを上回り、10年前のほぼ2倍に達している。
今年は米国が日量平均440万バレルで首位に立ち、ブラジルが250万バレルで続く。
米州から増えた原油の多くは、アジアが吸収してきた。イラン戦争の開始以降、米州からアジアへの輸入は急増しており、8月には過去最高の日量540万バレルに達する見通しだ。25年の平均は400万バレルだった。
この供給源の多角化は、計画的に進められたものではなく、必要に迫られて生じたものだった。しかし、この衝撃は、中東からの供給に過度に依存するリスクを浮き彫りにした。アジアが過去の戦時下で供給混乱の痛手を経験したことを踏まえれば、その教訓は長く残る可能性がある。
湾岸諸国からの輸出が最終的に回復したとしても、アジアの輸入国は、再び特定の地域に過度に依存することを避けたいと考える可能性が高い。その地域が脆弱な海上交通の要衝を抱え、紛争リスクが高いなら、なおさらだ。
湾岸産原油には地理的な優位性があるため、西半球から調達する原油の比率を高めることはコスト高となる。しかし、そのコストは今後、将来の地政学的混乱に備える保険料とみなされる度合いが高まる可能性がある。
<台頭する米州>
こうした世界のエネルギー貿易パターンの転換を可能にしたのは、過去10年間に米州全体で見られた石油・天然ガス生産の大幅な増加だ。
この拡大を何よりもけん引したのは、米国のシェール革命だ。この革命は世界の石油市場を変え、米国は18年にサウジアラビアとロシアを上回って世界最大の産油国となった。国際エネルギー機関(IEA)によると、米国の生産量は25年に日量2100万バレルと過去最高を記録し、世界生産量の約5分の1を占めた。
その他の地域でも、生産量の伸びは著しい。
IEAによると、ブラジルは26年に生産量を過去最高の日量430万バレルに引き上げる見通しで、前年比48万バレルの増加となる。ブジオス油田やバカリャウ油田といった大規模な海洋油田がこれを支えている。
カナダはオイルサンドの生産能力を拡大し続けている。ガイアナは世界で最も急成長する産油国の一つとなりつつあり、アルゼンチンも北米以外では最大級の非在来型資源であるバカ・ムエルタ・シェール層からの生産を着実に増やしている。
IEAのデータによると、これらを合計すると北米の石油生産量は27年に日量平均3050万バレルに達する見通しで、中南米の生産量は930万バレルに達すると見込まれる。これは同地域の生産が過去10年間で50%増えることを意味する。
この地域、とりわけ北米は、長年にわたり生産能力や輸出ターミナル、パイプライン、海運インフラの整備を進めてきた。多くの点で、今回の中東危機はこの地域の産油国にとって、極めて好都合な時期に起きたと言える。
<ホルムズ海峡がもたらした好機>
ホルムズ海峡の危機は、これらの供給業者にとってまれな機会を生み出した。
米州は現在、世界の海上原油輸出のおよそ30%を占める。昨年の23%から上昇しており、この変化の多くはアジアの買い手が促している。米州の生産者がアジアで中東の供給者を完全に置き換えることはないが、湾岸諸国の市場支配力を侵食し続ける可能性はある。
何十年もの間、地理的な近さゆえに、中東産原油はアジアの輸入国にとって当然の選択肢となってきた。
ブラジルから日本へ航行するタンカーは、最大60日間の航海を要することがある。これは湾岸地域からの輸送時間のおよそ3倍だ。こうした長距離航海は船隊を長期間拘束し、海運需要と輸送コストを押し上げる。
その結果、アジア向けに長距離ルートを取る原油が増えるにつれ、タンカー運賃は高騰している。LSEGのデータによると、200万バレルを積載する超大型原油タンカー(VLCC)の運賃は1日当たり約64万ドル(約1億0240万円)と過去最高水準に達し、イラン戦争前の水準の3倍以上に上る。
アジアの製油会社は現在、より高いエネルギー安全保障と引き換えに、大幅に高い輸送コストを受け入れる姿勢を示している。不安定さを増す世界において、信頼性は距離と同じくらい重要であり続ける可能性がある。
米州には、他の産油地域にはほとんど見られない強みもある。原油種の幅広い多様性だ。
軽質・低硫黄の米国産シェール原油も、カナダ産の重質・高硫黄オイルサンド原油も入手可能だ。ブラジル沖合やガイアナ産の中質・低硫黄グレード、あるいはアルゼンチン産の軽質・低硫黄シェール原油も、ますます豊富に供給されつつある。
もちろん、米州が中東を完全に代替することはできない。中東は、はるかに大きな埋蔵量と、はるかに低い生産コストを誇る。
それでも、イラン戦争への一時的な対応として始まった動きは、世界の石油貿易における長期的な再編の様相をますます強めている。湾岸でミサイルの応酬がやんだ後も、その再編は長く続く可能性がある。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)