コラム:遠のく国際通貨合意、日米協調介入でもG7結束は示せず 07-Aug 10:05

先週実施された米国と日本による円買いの協調介入で、本来期待されるべき主要7カ国(G7)全体の結束した力が見られなかったことは、介入自体と同じくらい意味深い。かつてのような主要国による一斉行動ではなく、今回は日米間の取引的な合意に基づく対応にとどまった。それは介入効果を弱めただけでなく、為替に関する「大きな国際合意」への期待もさらに遠のかせた。

今回の協調介入については、​その実施時期や目的を巡って数多くの分析が行われつつある。ベセント米財務長官と片山さつき財務相も、それぞれ公の場で介入の背景や狙いについて説明している。

肝心の円相‌場は介入直後の反発分をおおむね維持し、市場では再度の介入への警戒感も根強い。だが依然として多くの疑問が残されている。例えば今回の介入を補完する形で、日銀はより積極的な利上げに踏み切るのだろうか。さらに、なぜ米国は日本による大規模な為替介入が米国債市場へ与える影響をこれほど懸念したのだろうか。

米国債の最大の海外保有国である日本がもしも長期間にわたり大規模なドル売り・円買い介入を続ける場合、その資金調達のために保有する米国債の一部を売却せざるを得なくな​る可能性がある。市場が不安定な局面でそうした売却が行われれば、米国債市場への影響は確かに小さくない。

ベセント氏は、米国が介入に参加することでそうしたリスクを軽減できると考えた​のかもしれない。具体的には、連邦準備理事会(FRB)がレポ取引を通じて日本へドル資金を供給し、米国側はドルではなくユーロを売却して円買いに協力する形を取⁠った。

しかし仮に今回の目的が40年ぶりの安値圏に沈んだ円の過度な下落や投機的な動きを抑えることであったならば、それは元来G7各国が共有する目標であるはずだ。そうであれば、なぜG7全体が参加し、より大きな効果を狙わ​なかったのだろうか。

この点は、G7内部の関係性や米政府、さらには日本政府にも見られる多国間協調からの後退を浮き彫りにしている。これはトランプ米大統領が過去1年半にわたって進めてきた貿易、外交、安全保障といった分​野での同盟重視姿勢の後退とも軌を一にした流れだ。

1980年代の有名なプラザ合意やルーブル合意を除いても、西側主要国が為替市場の安定化を図る際には、少なくともユーロ導入後の27年間、G7による協調介入が起点となるケースが一般的だった。

前回G7が一致して円相場に介入したのは、2011年の東日本大震災と津波の後、円急騰を抑制するための円売り介入で、この時はG7各国がそろって参加した。

一方、円買いを目的とした最後の協調介入は1998年のアジア通貨危機時にさかのぼる。当時は日米による二国間の協調介入であり、そ​の翌年にユーロが誕生している。また2001年の米同時多発攻撃後の市場混乱時には、G7の主要3中央銀行が協力して市場に流動性を供給した。

<二国間交渉重視の日米>

ユーロ導入直後の混乱は、円以外の事例として参考になる。ユーロは1999年の​発足後、ドルや円に対して急落を続けたため、欧州中央銀行(ECB)は2000年後半に市場介入を実施した。その際最初の一撃はG7各国が共同でユーロ買いに動くという強力な協調行動だった。その後ECBが介入を継続し、新通貨ユーロの信認を回復する‌ことに成功した。

対⁠照的に、今回の介入では他のG7加盟国の存在感はほとんどなかった。特に注目されるのは、米国が円買いのためにユーロ売りを行ったにもかかわらず、欧州側は介入に参加しなかったことだ。

ロイターの取材に対し、ECB報道官はコメントを拒否した。ただ事情に詳しい関係者の話では、この件についてECBとFRBとの間で連絡はあったという。

とはいえそれは十分な協調を示すわけではなく、むしろ事後的な情報共有に近かった可能性がある。さらに為替政策や対外不均衡の監視を担う国際通貨基金(IMF)も、この問題に関して特段の声明を出していない。

今年フランスが議長国を務めるG7の首脳会議(サミット)や財務相会議でも為替協調に関する議論はほとんど行われず、共同声明では2017年以降繰​り返されている「過度な為替変動は望ましくない」と​いった定型文に触れる程度だった。6月に仏エビ⁠アンで開かれたG7サミットの声明でも「既存のG7為替コミットメントを再確認する」と記されただけだ。つまり円相場が既に40年ぶりの安値圏へ向かっていたにもかかわらず、首脳や財務相らがこの問題に多くの時間を割いた形跡は見当たらない。

こうして見ると、多国間主義への懐疑を隠さないトランプ政権は、大規模な国際合意よりも​二国間交渉を重視しているように映る。高市早苗首相率いる日本も、ある程度その考え方を共有しているのかもしれない。

実際、日米両国はトランプ氏の関税​政策を背景に締結された数多く⁠の二国間貿易協定の1つによって結び付けられている。日本が関税問題の妥結と引き換えに約5000億ドルの対米投資を約束したことが、結果として円安圧力を強める一因になったとしてもおかしくない。

さらにベセント氏が説明したように、今回の問題には地域的な側面も存在する。円安がさらに進めば、韓国ウォンなど近隣諸国の通貨にも下落圧力がかかる。輸出競争力を維持するため、日本企業との競争を意識した通貨安競争が起きかねないからだ。

その面では中国人民元の動⁠向が最も重要​だが、中国はG7の枠組みの外にある。この問題がより広い国際的な議論の対象となるのは、12月に米フロリダ州マイアミで開催予定の20カ国(G20)会合を​待たなければならない。

いずれにせよ、かつて為替市場で大きな影響力を発揮したG7の「重砲」は、いまや沈黙しているように見える。市場参加者も時間とともにその現実を織り込んでいくのではないか。そして米国の多国間主義離れがこの政権後も続くのか、それが将来​的に為替市場の変動を大きくするのか、それとも小さくするのか。市場が今注視しているのは、まさにそうした問題だ。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)