日銀が30年ぶりの高水準となる0.75%への利上げを決定した。植田和男総裁は会見で、実質金利はまだ極めて低いところにあるとして、利上げ継続の方針を示す一方、今後の利上げペースについて具体的な示唆を与えなかった。日銀では、今回の利上げの影響をつぶさに点検しながら、追加利上げのタイミングは慎重に探るべきだとの声がある。ただ、円安への懸念は政策委員の間でも強く、状況次第では調整が速まる可能性もある。
<利上げ後の変調を注視>
金融政策決定会合後の声明文で日銀は、実質金利は極めて低い水準にあるとして、経済・物価見通しが実現していくとすれば引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していく方針を改めて示した。基調的な物価上昇率については「緩やかな上昇が続いている」と指摘。関税の影響で成長が鈍化し、基調的な物価上昇率が「伸び悩む」との表現は抜け落ちた。
今後は今回の利上げによって実体経済、特に貸出動向など金融環境に変調がないか、注意深く見ながら、追加利上げのタイミングを模索していくことになる。
日銀は段階的な利上げによって、緩和的な金融環境による経済・物価への「アクセル」を緩めていき、基調的な物価上昇率を2%にソフトランディングさせることを目指している。そのためには賃金と物価がともに緩やかに上昇するメカニズムは維持される必要があり、利上げ判断は慎重であるべきだ、との声がある。政策金利の水準によって、今後の利上げが実体経済に対して効きすぎてしまうリスクへの警戒感も根強い。
今回の利上げに当たり、日銀は米国経済や各国の通商政策の影響を巡る不確実性が「低下している」と判断したが、AI関連投資の急減速リスクなど米経済の下振れリスクは残り、来年度にかけて経済の下振れリスクは引き続き大きい、との見方もある。
<中立金利の幅>
植田総裁が1日の記者会見で、利上げした暁には中立金利までの距離感について考えを明示すると発言したことで、市場で中立金利の推計に関心が向かった。
推計値が日銀の利上げ余地を示すものであるかのように市場をミスリードすることへの警戒感もあって、今回の決定会合では最新データに基づく推計値の公表は見送られたが、中立金利の推計の「幅」が、日銀の利上げ判断を慎重にさせる可能性もある。
植田総裁は19日の会見で、中立金利の推計下限まで「少し距離がある」とする一方で、実際の中立金利がどこに位置するのかは利上げによる経済の反応を点検しながら「手探りで見ていかなければいけない」と述べた。
日銀では、中立金利の推計の下限である1%が市場の一部で政策金利の到達点であるかのように捉えられていることへの違和感が指摘されてきた。その一方で、推計の下限にも幅があるため、1%に利上げする際も経済への影響を注意する必要がある、との見方がある。
<慎重な対応と利上げ間隔>
一方、中立金利の居所がどこなのか探りながら、中立金利に迫るほど利上げ判断は慎重になっていくべきだが、慎重な対応は利上げ間隔が大きいことを必ずしも意味しないとの声もある。
トランプ米大統領が打ち出した高関税政策による日本経済への影響を日銀が時間をかけて見極めたように、日銀は利上げによる経済・物価への影響のみならず、金融市場情勢などその時々のリスク要因とも向き合わなければならない。
日銀の事情をよく知る一部の関係者は、為替円安が継続すれば、高市早苗政権が引き続き日銀の利上げを容認するのではないかとの読みから、来年4月にも追加利上げが可能なのではないかとみている。
植田総裁は記者会見で、決定会合では複数のボードメンバーが円安の物価への影響を指摘したことを明らかにした。その上で「円安が基調的物価に影響を与える可能性については、企業の価格設定行動が積極的になっているもとで注意してみていきたい」と語った。
リスク要因の状況次第で、それが基調的な物価上昇率に影響をもたらす可能性が出てくるなら、追加利上げの時期が早まる可能性も否定できない。