コラム:広がる米「大衆富裕層」、消費主導経済の底力に 26-Jul 09:17

米国では、高所得者や資産保有者が潤う一方で、資産規模がより小さい層が苦境に立たされる「K字型経済」の存在に異論を唱える人はほとんどいない。しかし、これが少数の裕福なエリートとその他大勢を指すものだと考えるのは誤解だ。この10年間、米国を世界の他の国々から際立たせてきたのは、その富裕層集団の規模そのものである。

米国の経済格差に関する議論は、建国以来250年の歴史の中で繰り返し表れてきた。ただそうした議論が激化した​のは新型コロナ禍以降で、米連邦準備理事会(FRB) や民間エコノミストによる最近の数多くの研究が、ここ数年の推移を詳細に示している。

実際、5月に公表されたばかりのニューヨーク連銀の論文では、2023‌年の初めから米国の消費支出の伸びは確かにK字型となっている。その傾向は金利がピークに達し、AI株ブームが始まった23年当時に最も顕著で、パンデミック期間やコロナ禍直前の数年間とは明らかに異なっていた。主に挙げられた2つの要因は、低所得世帯が高インフレと高金利から富裕層よりもはるかに大きな打撃を受けたこと、そして富裕層は急速な資産価値の上昇から不釣り合いなほどの追い風を得たことだ。

それが公平かどうかはともかく、この富裕層の力が、相次ぐ政治的・経済的ショックに直面しながらも見せてきた米国経済全体の回復力の多くを説明している。富裕世帯は​個人消費の大部分を占めており、個人消費は国内総生産(GDP)の大部分を占めているためだ。有権者が緊急的な是正を求めず、資産市場の大きな暴落が起きない限り、前向きの好循環が今後何年も続く可能性がある。つまり全体​的な支出の増加とGDPの成長が米国企業の利益成長を促し、株価はさらに上昇し、それが個人消費の継続を促すという構図だ。

この好循環の力は、多くの人が想定している以上に大⁠きいかもしれない。米投資ファンド大手カーライルの調査責任者ジェイソン・トーマス氏は今週、その購買力と相対的な富が米国においていかに広く普及しているかを強調した。トーマス氏は、裕福な米国人はもはや一部の富裕層による排他的な集団で​はなく数千万世帯に上り、巨大な経済的影響力を持っていると指摘する。彼らはあらゆる経済的ショックを見事な底堅さで乗り越え、それが広範な経済を押し上げる原動力となっているという。

今夏のサッカーワールドカップ(W杯)で米国を訪れた人々​は、国内に点在するK字型の格差の兆候と同じくらい、この「大衆富裕層(マス・アフルエンス)」に目を見張っただろう、というのがトーマス氏の見方だ。

トーマス氏は過去3年間のデータを分析。高級品、高級旅行、高級レストラン、ライブイベントへの支出が、強い経済的ストレスに苦しんできた低所得層の低調な消費トレンドに比べ、いかに大きく上回っているかを明らかにした。

今年2月のイラン戦争以降も同様の傾向が再び表れている。この期間、上位3分の1の層の支出は、他の層の伸び率の2.5倍の速さで増加している。

<「4500万世帯のエリート」か>

しかしトーマ​ス氏は、このような幅広く見られる傾向と結び付くのは高所得というよりも、むしろ潤沢な金融資源と資産であり、これが経済的回復力を持つ米国人のグループをさらに拡大させていると分析する。

米国の1億3500万世帯のうち、5000万世帯超が住宅ローン​を利用して住宅を所有し、その価値は2020年以降平均で50%上昇している。そしてそれらのローンの96%は比較的低い長期固定金利だと、トーマス氏は言う。現在の住宅ローン金利6.55%と、既存の住宅ローン残高全体の平均金利4.28%との差は、欧州経済で一般的なように住宅ロ‌ーンが変動金利⁠型だったり、より頻繁に金利改定されたりする場合と比べ、米国人が自由に使える資金を約3000億ドル(約49兆円)多くしていることを示している。

さらに約7300万の米国世帯が退職資産口座(主に401K)を保有し、そのほとんどは株式保有が中心となっている。そして、これらの確定拠出型年金の資産残高は20年以降、年率換算で12.7%という複利成長を遂げ、約6兆7000億ドル増加した。こうした潤沢なポートフォリオは、この期間に可処分所得に対する米国の貯蓄率が低下した理由を一部説明している。

トーマス氏はさらに、住宅資産と株式資産の双方を保有している米国世帯の数を推定し、それが全体の3分の1に当たる約4500万世帯に上るとともに、彼らの年間支出額は合計で約15兆ドルに達するとはじき出した。これはドイツのGDPの3倍、中国のGDPの70%に相当する規模だ。

「米国の​状況は、誰にとっても平等主義的な理想とは程遠い。生活​費のショックは数百万世帯の家計を圧迫し、期待され⁠ていた実質所得の追い付きも最近の紛争によって危うくなっている」とトーマス氏は述べた上で、こう続けた。

「しかし、米国経済は『K字型』というよりも、2つのスピードで進んでいると例えるのが適切だろう。1つは欧州とほぼ同じ速度であり、もう1つはそれをはるかに引き離して猛スピードで進んでいるものだ」。

これら全ての持続性が永遠の課題だ。さらに超富裕層の集団​が拡大するにつれ、K字の上腕部分の中でもさらにK字型の分化が起きている可能性さえある。

しかし、今年のエネルギー価格の圧迫や昨年の関税導入にもかかわらず、人工​知能(AI)ブームが株式市場を支え、⁠景気後退への懸念が地平線の彼方に消え去ったため、米国全体の金融・家計の状況は驚くほど健全に見える。

もちろん富裕層以外の家計をむしばみ、時間の経過とともに富裕層上位3分の1の資産市場をも枯渇させるような、有害な「スタグフレーション」の発生に対する根強い懸念は残っている。

ニューヨーク連銀のエコノミストが結論付けたように「金融資産が果たしている実質的な役割は、金融市場の調整(下落)に対する個人消費の潜在的な脆弱性という問題を提起している」と言える。

とはいえ調整、あるいは少なくとも長期間続く⁠調整は、米国人が​これほど多くのショックに耐えてきた近年の状況においては、なかなか起きないものであることが証明されている。過信以外に、何がそうした調整​を引き起こすのかは見えにくい。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)