コラム:来年の金融市場、世界的金利上昇が隠れたリスクか 12-Dec 16:11

多くの銀行がここ数週間相次いで発表した来年の見通しを見ると、世界的に金利水準が低下もしくは横ばいではなく、上昇する可能性に触れているケースはほとんどない。一部の政策担当者からよりタカ派的な発言が出てきているにもかかわらず、デリバティブ市場が織り込む来年末に今より金利が上がっている確率は米国が0%、欧州でも30%に過ぎない。だが最近の日本とオーストラリアの金融政策姿勢の転換は、投資家が引き締めリスクを真剣に受け止めるべきことを示唆している。

金融引き締めを求める声は強まりつつある。米連邦準備理事会(FRB)は10日の連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を25ベーシスポイント(bp)引き下げると決定し、FOMCメンバーは来年あと1回の利下げを想定した。しかし反対意見も拡大し、FOMCメンバー19人中6人は来年の利下げを望まず、3人は来年末までの政策金利上昇見通しを示している。

米国以外ではそうしたシグナルはより明確だ。欧州連合(EU)のシュナーベル理事は最近、次の一手は利上げになると断言した。ECB自体が物価上昇率は目標を下回って推移すると予測している今の段階で利上げはありそうにない。ただラガルド総裁は今週、ユーロ圏の経済見通しは今後引き上げられると述べた。

投資家はまだこのような状況を完全に受け入れてはいない。一部の主要国で来年の予想平均金利が上昇し始めたものの、変化は小さく、主として利下げ打ち止め観測に関連したものだ。米国の場合は、大半の証券会社がトレーダーと同じく、なお50bpの追加利下げが実施されると見込んでいる。

例外は日本で、デリバティブ市場は日銀が今月利上げに動く確率を75%と予想する。もっとも日銀はコロナ禍以降、超緩和的な金融政策をほとんど修正してこなかった上に、現在は大規模でインフレ的な財政拡張に対応しようとしているという意味で、特異な立場にある。

 一方でオーストラリアの金融政策の方向が180度変わったことは最大の注目材料だろう。複数回の利下げを予想していた市場は今、政策が急速かつ大幅に引き締められると警戒している。幾つかの中央銀行の政策運営姿勢はしばしば連動するので、このオーストラリアの変化がトレンドになってもおかしくない。実際、現時点までは様子見を示唆しているだけのスウェーデンとカナダの中銀を巡っても、引き締め転換の観測が出始めた。

来年中に、株式市場をかく乱するほど金利が上がる公算は乏しい。多くの西側諸国では、失業率はじりじりと上昇を続け、賃金の伸びは鈍化し、期待インフレ率はなお落ち着いたままだ。これらは足元の金融政策が過度に緩和的でないことを意味する証拠だ。

とはいえ短期的には、中銀は差し迫った重圧に直面している。総合ベースの物価上昇率が高止まり、目標を上回っているほか、経済成長は想定より強く、ドイツなどで財政政策が拡張的となり、オーストラリアやスウェーデンといった国の住宅市場が勢いを取り戻しているからだ。トランプ大統領が利下げを要求している米国でさえ、金融政策を突然タカ派に転換するハードルは投資家が考えるより低いかもしれない。

世界的な金利上昇は、市場にとって隠れた危険要素になる恐れがある。

●背景となるニュース
*米連邦準備理事会(FRB)は10日の連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を25ベーシスポイント(bp)引き下げて3.5-3.75%にすることを決めた。ただこの決定に対する反対意見が増えていることも示された。 もっと見る

*オーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)は8日に政策金利を3.6%に据え置くと決定。ブロック総裁は来年中の利下げを否定し、利上げを検討する可能性を示唆したように見えた。 もっと見る

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)