中国の新興ロボット企業 宇樹科技(ユニツリー・ロボティクス)(688836.SS)創業者の王興興氏には、本来なら笑顔になる理由が十分にあるはずだ。
王氏が設立したユニツリーは今、中国で最も注目を集める企業となっている。19日の上海市場への新規上場では株価が5.6倍まで急騰し、36歳の王氏はアリババグループ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏らに並ぶテック業界の億万長者の仲間入りを果たした。
ところが、上場記念式典で撮影された王氏の表情は意外にも浮かないものだった。その写真が交流サイト(SNS)上で拡散されると、中国のネットユーザーたちは一斉に「なぜ王氏は笑っていないのか」と問いかけた。
一見すると、中国の人型ロボット産業はまさに黄金期を迎えているように見える。米実業家イーロン・マスク氏率いるテスラ(TSLA.O)がいまだ1台の人型ロボットも販売していない一方で、政府予測ではユニツリーや智元機器人などの中国企業は2026年に計10万台を出荷する見通しだ。
その背景には、中国が持つ強力な製造基盤とサプライチェーン、そして政府による手厚い支援がある。こうした環境によって、ロボット産業はかつての中国の電気自動車(EV)産業と似た成長軌道を歩み始めている。
しかし、その華やかな状況の裏側では不安材料も少なくない。ユニツリーの株価は上場初日に記録的な高値を付けた後、既に約30%下落し、140億ドル規模の時価総額が失われた。それでも現在の時価総額は約360億ドルに達しており、予想される上半期利益を年換算した場合の株価収益率(PER)は400倍を超える。市場では依然として、バブルではないかとの懸念がくすぶっている。
不安の要因の1つは技術面にある。中国の人型ロボットはなお人間並みの知能や信頼性、器用さを備えておらず、簡単な作業でさえ十分にこなせないケースが多い。その実情は、今週北京で開催された「世界人型ロボットスポーツ大会」、通称ロボット・オリンピックで明らかになった。
例えばロボット「天工」は100メートル走で人類最速記録保持者ウサイン・ボルト氏の記録を上回るタイムを記録したものの、その後は十分に減速できず障害物に突っ込んでしまった。現実世界で必要となるブレーキ能力が欠けていたためだ。
さらに一部のロボットは競技中に発火し、ほとんどの機体が競技終了後に担架で運び出されたとAP通信は伝えている。こうした光景は、ロボットが実社会で広く活用できる段階に達しているという安心感とは程遠い。
ユニツリーも、現時点では製品の商業利用先が限られていることを認めており、王氏自身は、本格的な技術的ブレークスルーが実現するまでには「10年程度かかる可能性がある」と警告している。ロイターの分析に基づくと、それまでは需要の多くが政府による購入や補助金に支えられている状況だ。
しかも、業界内では既に激しい価格競争が始まっている。ユニツリーは、26年第1・四半期の調整後純利益が前年同期比で53%減った理由として、多額の研究開発費負担と競争激化を挙げた。こうした状況を踏まえると、王氏が巨額の含み資産を手にしたにもかかわらず、満面の笑みを浮かべていなかった理由が理解できるかもしれない。
●背景となるニュース
*ロボット・オリンピックとも呼ばれる第2回世界人型ロボットスポーツ大会は26日に閉幕した。5日間にわたり北京で開催されたこの大会には、主に中国から666チーム、2000台を超えるロボットが参加。スポーツ競技に加えて工場、レストラン、オフィス、緊急対応現場を模した環境での作業能力を競うなど、計51種目が実施された。
*大会期間中には、北京人形機器人創新中心が開発したロボット「天工」が100メートルを8.64秒で走破し、ジャマイカのウサイン・ボルト氏が保持する人間の世界記録を上回るタイムを記録した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)