戦時には財政赤字の増大は避けられず、平時にこそ、そのツケを返すべきだとされてきた。ところが米政府はこの数年、実際には戦争をしていないにもかかわらず、まるで戦時であるかのように支出を続けてきた。そして、その状況でトランプ大統領がイランへの攻撃に踏み切ったため、武器の購入や、サプライチェーン混乱の影響を和らげるために使える財政的な余裕はほとんど残されていない。
事態をさらに悪化させる動きが重なった。米連邦最高裁はトランプ関税を違憲と判断し、巨額の関税収入が消滅。加えて高金利が長期化し、政府は国債の利払い負担が重くなっている。米国は公的債務が自己増殖的に膨らむ「債務スパイラル」に陥りかねない局面にある。
米国はきわめて厳しい財政状況でこの紛争に突入した。議会予算局(CBO)によると、2025年の財政赤字の対国内総生産(GDP)比は5.8%に達し、過去50年平均の3.8%を大幅に上回った。CBOは連邦政府債務の対GDP比が25年の99%から36年には120%へと急激に上昇し、第二次世界大戦直後に記録した過去最高の106%を超えると見込んでいる。中東での紛争が長引けば米財政のもろさがさらに深刻化するだろう。
トランプ政権はすでに先月の連邦最高裁判決によって歳入ショックの不意打ちを食らっている。最高裁は、政権が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠として各国・地域に課した「相互関税」などを違憲と判断したが、これらの関税は推計で1750億ドルの収入をもたらしていた。トランプ氏は、将来的には関税収入を財源にして所得税を減税する可能性に言及してきた。これは現実味が乏しいとはいえ、関税収入が政権にとって重要な財源と見なされていることを示している。
しかし、この資金はすでに使い切られ、しかも不足している。トランプ氏が成立させた25年の税制改革により、米国の財政赤字は今後10年間で4兆7000億ドル増加する見通しだ。さらに、新たな戦費を賄うため、毎年の歳出予算は一段と膨らむ可能性が高い。ホワイトハウスはすでに初期段階として500億ドルの追加予算を議会に求める構えを見せている。
一方、原油価格が上昇しても政府が得られる恩恵は限定的だ。石油生産には価格に関係なく1バレル当たり一定の税率が適用されており、企業の超過利益に追加課税する超過利潤税も1988年に廃止されている。
連邦準備制度理事会(FRB)が政権の味方になることはあり得ない。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)やロシアによるウクライナ侵攻の後、供給ショックによって物価が急上昇した記憶がまだ生々しいため、FRBはインフレの再燃を容認する気がまったくない。物価上昇圧力を抑え込もうとし、その結果として投資を冷やすことになるだろう。先物市場は年内に政策金利が25ベーシスポイント(bp)ずつ2回引き下げられるとの見方を織り込んでいるが、この数日、FRB高官らは戦時下における供給不足や物価への警戒感を相次いで示している。
仮に紛争が早期に収束すれば、財政への直接的な打撃は限定的だろう。だが、高金利と財政支出増加が続く限り、利払いコストは増える。CBOはすでにイラン攻撃前に、国債の利払い費が34―35年度までの10年間で2兆ドル規模へと倍増するとの試算を示している。穴を掘る(財政支出を行う)スピードは速まり、穴は深まるばかりだ。
●背景となるニュース
*ニューヨーク連銀行のウィリアムズ総裁は3日、米国とイランの対立が終結の見えない形で続けば、少なくとも短期的には、資産価格の下落、同盟国への貿易ショック、そしてインフレの加速といった形で、その影響が米経済に跳ね返ってくる可能性があるとの見方を示した。
*米議会予算局(CBO)は2月、26会計年度の米財政赤字は1兆9000億ドルにやや拡大するとの見通しを示した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)