コラム:半導体ブーム、飛びつくにはなぜ遅すぎるのか 25-May 12:38

人工知能(AI)への投資が急増する中、半導体の需要は爆発的に高まっている。ロジック半導体やメモリー半導体の価格は、かつてない速さと高さで上昇している。米マイクロン・テクノロジー(MU.O)や韓国サムスン電子(005930.KS)といった半導体メーカーの株価も、この動きに連動して上昇している。供給は逼迫しており、アナリストらは新たな半導体ブームを熱烈に歓迎している。

だが、投資家らは実業家の故ジェームズ・ゴールドスミス氏の「ブーム​の波に乗ろうとした時には、すでに手遅れだ」という助言に耳を傾けた方がいい。

過去を振り返ると、半導体業界は資本サイクルの影響を受けてきた。半導体製造工場の建設には巨額の費用‌を要する。半導体価格が上昇すると各メーカーは生産能力を増強し、新規参入も起きた。

需要が鈍化しても半導体メーカーは生産を続けたため、競争激化によって価格が下落したことで業界全体に損失が広がった。このため、半導体業界への投資家は苦境に立たされた。

フィラデルフィア半導体指数は1994年から2014年にかけての20年間にナスダック総合指数を下回るパフォーマンスを示し、かつより大きく変動した。

しかしながら、2014年ごろになると業界はようやく体制を立て直した。バーンスタイン・リサーチが13年5月に発表したレポートは、半導体メーカーが「前例​のない構造変化のまっただ中にあり、業界再編や参入障壁の高まりに加え、技術的な不確実性の高まりや需要の弾性低下が相まって、積極的な投資がもはや報われない新たな半導体のパラダイムへの道​が開かれている」と指摘した。

1990年代序盤には世界に大手半導体メーカーが12社あったが、現在はマイクロン、サムスン、韓国SKハイニックス(000660.KS)の3社で市場の95%超を占めている。

調査会社ペラム・ス⁠ミザーズ・アソシエイツによると、半導体製造装置のサプライヤー間でも統合が進んでいる。オランダのASML(ASML.AS)は、最先端の半導体製造に使う極端紫外線(EUV)露光装置でほぼ独占的な地位を占めている。

サプライチェーン(供給網)の他​の部分でも、競争は緩和している。その結果、半導体の生産を拡大する際には、克服すべき複数のボトルネックが存在する。

人工知能(AI)の革命は、こうした供給面の制約を露呈させた。大規模言語モデル(LLM)が機能するには、米エ​ヌビディア(NVDA.O)が製造するグラフィックス半導体と連携して動作する、膨大な量の中央演算処理装置(CPU)が必要となる。

また、最先端のAIモデルの訓練や、AIが生成したデータの保存にはメモリー半導体が不可欠だ。ペラム・スミザーズによると、世界で過去10年間に生成・保存されたデータ量は20倍を超えている。AIが生成する新たなコンテンツがけん引し、2026年は前年より約30%増えると予想されている。

新規供給の弾性が低いことを踏まえると、DRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)の価格が、過去1年間に6倍へ急騰したのも不思議ではない。

DRAMを生産するマイクロンの株​価はさらに大きく上昇し、サムスンとSKハイニックスも思わぬ恩恵に浴している。

半導体、技術系のハードウエアと機器メーカーは現在、MSCI新興国株価指数の時価総額の4割近くを占めており、これは3年前の2倍だ。世界の半導体企業に特化した​ラウンドヒル・メモリー上場投資信託(ETF)は数十億ドルの資産を集め、今年4月上旬の開設時の4倍に膨らんだ。

エヌビディアは逼迫する半導体供給をほぼ1000億ドルに上る購入契約で囲い込んでいる。独立系調査会社セミアナリシスの創業者ディラン・パテル氏は、DRAM価‌格が現在の2倍あるい⁠は3倍に跳ね上がる可能性があると見ている。ペラム・スミザーズは、今後数年間にわたって続く可能性のある半導体ブームに触れている。一体何が問題になり得るのだろうか。

第一に、半導体の資本サイクルが変化しつつある。SKハイニックス、サムスン、マイクロンはいずれも新工場を建設中だが、これらの施設の稼働開始はあと1年半ほど先になると見込まれている。半導体受託製造世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)(2330.TW)は、2027年の投資額を24年の2倍に引き上げる計画だ。

一方で最大のリスクは、需要側にあるかもしれない。半導体企業の運命は、米国の大手テック企業がデータセンターの増設への巨額投資を続けるかどうかにかかっている。モルガン・スタンレーは、アマゾン・ドット・コム(AMZN.O)、グーグルの親会社アルファベッ​ト(GOOGL.O)、メタ・プラットフォームズ(META.O)、マイクロソフト(MSFT.O)、​オラクル(ORCL.N)が27年までに計1兆ドル超を投資すると予測し⁠ている。この狂乱的な設備投資は、各社のフリーキャッシュフローのほぼ全てを食いつぶしている。

しかも英投資銀行パンミュア・リベラムが最近発表したレポートによると、アマゾン以外の企業はいずれも投資の内部収益率(IRR)がマイナスに陥っていると想定されている。「ハイパースケーラー」と呼ばれるこれらの企業が現在の投資計画を正当化するた​めには、売上高を2兆―5兆ドル増やす必要があるとパンミュア・リベラムは指摘する。これは達成が非常に困難な課題だ。

控えめに言っても、AIの経済性は不透明だ。大規模言​語モデル(LLM)の構築には莫大な費⁠用がかかり、運用コストも高い。パンミュアは、オープンAIの推論コスト(AIモデルが訓練の結果を新しいデータに適用するプロセス)は、売上高を大幅に上回っていると説明する。

損失が無限に膨らみ続けることはあり得ない。マクロストラテジー・パートナーシップのジュリアン・ギャラン氏によると、オープンAIは最近、年間50億ドルを超えるコストを投じていた動画生成AI「Sora(ソラ)」のサービスを終了した。マイクロソフトは4月、ソフトウエア開発向けウェブサイト「ギットハブ」の月額課金方法を⁠定額制から従​量課金制へ移行すると発表した。

オープンAIが22年終盤に生成AIモデル「チャットGPT」を公開して以来、企業はコストを顧みず、自社のAIの技術力を証明​しようと躍起になってきた。しかし、誤情報を生成する「ハルシネーション」問題に悩まされるこれらの生成AIモデルは信頼性に欠け、これまでのところ生産性の向上は実現できていない。コストを賄うために価格を引き上げるのにつれ、需要は縮小する可能性が高い。

そうなれば、ハ​イパースケーラー各社は壮大な投資計画から後退せざるを得なくなるだろう。その時点で、半導体ブームに急ブレーキがかかることになる。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)