ペルシャ湾岸諸国は長年、イランとの間で危うい緊張緩和(デタント)状態を維持してきたが、イランによるミサイルとドローン攻撃によってその関係は崩れた。アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、カタールは今、戦争前の状態に戻れるかを疑問視している。特にUAEは、自国の金融システム内にある膨大なイラン資産の使い方を思案し始めたが、この資産を反撃の手段に利用することは諸刃の剣だ。
イランは現在、米国との停戦交渉においてホルムズ海峡を航行する船舶に通行料を課す可能性を示している。これは湾岸の貿易・エネルギーの流れを脅かすものだ。湾岸諸国の態度硬化はすでに顕著で、UAE大統領の外交顧問であるアンワル・ガルガーシュ氏は7日、イランとの間に「信頼はない」と述べ、海峡の安全の保証と自由な航行を求めた。サウジアラビアは、国連条約に基づき制限なしで海峡を再開放するよう訴えている。イランと最も良好な関係にあると見なされることが多いカタールでさえ、正式に賠償を要求した。
3月5日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、UAEがイランの攻撃に対する報復として「数十億ドル相当」のイラン資産凍結を検討していると報じた。理屈上、凍結実行を正当化する根拠は強まる一方だ。イランは40年にわたる制裁下、秘密の金融システムを構築して石油収入を現金化してきた。同国の原油輸出は2024年時点で年間約430億ドルに上り、この収入はどこかで清算、決済、再循環させる必要がある。その一つが、ペルシャ湾を挟んで目と鼻の先のUAEドバイだ。
ドバイは長年にわたって資金の逃避先としての役割を果たしてきた。2020年から24年にかけて、UAEは金融活動作業部会(FATF)が定めるマネーロンダリング(資金洗浄)、テロ資金供与、拡散金融(核兵器などの拡散を支援する金融)の監視強化対象国(グレーリスト)に載っていた。また、米財務省が25年10月に公表した報告書によると、24年だけでイラン関連資金86億ドルがUAEおよびアジアの他の金融拠点を行き交った。うち70%以上がUAEを拠点とする事業体に関連しており、そのほぼ全てがドバイ由来だった。
ドバイ・マルチ・コモディティー・センター(DMCC)などの自由貿易ゾーンが、こうした金融の促進に重要な役割を果たしている。
現在UAEにあるイラン関連資産の価値は不透明だが、ハドソン研究所の中東安全保障プログラム責任者マイケル・ドラン氏によれば、約500億ドルと推定して良さそうだ。UAEはこれを反撃に使う可能性がある。例えば、国内の銀行口座を通じてイランの石油関連資金を追跡し、送金に使用されているUAE拠点のダミー会社を閉鎖させることができる。これを大規模に行えば、イランが国際金融システムを通じて石油収益にアクセス、再循環する能力を大幅に低下させられるだろう。
しかしイラン関連資産の凍結は論争を呼びそうだ。資産の多くは第三国の仲介者や合弁事業、正当な貿易金融を含む複雑な企業構造と結びついている可能性が高く、訴訟リスクが生じる。
さらに重要なこととして、大規模な資産凍結を実施すれば、ドバイは「非政治的な避難所」だという投資家の認識が揺らぎ、「資本の首都(Calital of capital)」を目指すUAEの野心にも逆行する。ロシアの富裕層や、他の制裁対象国からドバイに逃げてきた投資家は「次は自分たちが標的になるのではないか」と恐れるかもしれない。
キャピタル・エコノミクスの予想では、今年のUAE経済は8%のマイナス成長に陥る見通しで、イラン資産の凍結はタイミング悪くUAE経済を試練にさらしかねない。
より強固な地政学的ブレーキも存在する。仮に米国が合意に基づき、最終的にイランへの制裁緩和を決定した場合、UAEとしては単独で制裁を強めたくはないだろう。従ってUAEはドバイにあるイランの資産に手を付けられないかもしれない。
●背景となるニュース
*3月5日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、UAEがイランの攻撃に対する報復として、UAE内にある「数十億ドル相当」のイラン資産の凍結を検討していると報じた。
*これにはペーパーカンパニーが保有する資産の凍結、為替取引所の取り締まり、イラン革命防衛隊に関連する口座の凍結が含まれる可能性がある。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)