年初早々に米半導体大手エヌビディア(NVDA.O)のジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)と米マイクロソフト(MSFT.O)のブラッド・スミス社長が、人工知能(AI)セクターの成長を脅かす最大級の懸念材料である「水の確保」という問題で技術的に大きな進展があったことを相次いで明らかにした。
ともにデータセンターの水消費量を減らすうえで実際に前進があったことに間違いはない。だが、今回公表された技術で問題が全て解決できるわけではない。
データセンターを稼働するには大量の水を必要とする。衛生・水処理大手エコラボ(ECL.N)の試算によると、AI主導の成長に分野を限っても、水の年間消費量は30年までに現在の米国の飲料水消費量相当増加する可能性がある。これほどの水消費量増加が持続可能なのかという懸念が、データセンター建設反対の動きを後押ししてきた。
エヌビディアのフアン氏は1月初旬にラスベガスで開催されたコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)で、エヌビディアの新半導体システム「Vera Rubin(ベラ・ルービン)」について、業界標準の6度の水ではなく45度の温水で冷却できる「奇跡的」な性能を持っていると明らかにした。冷却水の温度のこの違いは重要だ。というのも、冷却用水は冷却作業の過程で蒸発し、多くが失われるからだ。
投資家はこの発表に即座に反応。ジョンソン・コントロールズ・インターナショナル(JCI.N)やモーディン・マニュファクチャリング(MOD.N)など換気・空調企業5社は時価総額が150億ドル吹き飛んだ。
数日後には、マイクロソフトのスミス氏がブログへの投稿で、水を蒸発させずに循環して利用する「クローズドループ型」冷却システムを用いるデータセンターの建設を開始したと明らかにした。新方式は水の使用量を90%削減できるという。
こうした新技術の開発は業界全体の取り組みの一角にすぎない。例えば、アジアに注力している豪データセンター運営会社エアトランクは、東京拠点の1つで水ではなく空気で冷却を行っている。同社はデータセンターで使用する水の55%を再生水で賄い、マレーシアでは排水処理施設を建設中だ。
マイクロソフトも米西部ワシントン州で同様の施設に資金を提供し、データセンターでの水の再利用を可能にした。さらに実業家イーロン・マスク氏の人工知能(AI)企業、xAIは8000万ドルをかけて南部テネシー州メンフィスのAIデータセンターで使用する旧石炭火力発電所に由来する汚染水を処理・販売した。多くのAI事業者は湿地の再生や漏水管の修繕支援など、地域の水供給を強化するプロジェクトにも資金を拠出している。
ただ、業界がせっかく努力しても、伝え方や情報開示の方法が不十分なため、水使用で改善を図っているという自分たちの主張が説得力を失っている面もある。
情報開示は雑然としており、比較が難しい。企業によってはデータセンターごとの水使用量を出すところもあれば、全拠点をまとめた数字しか示さないところもあるし、どちらもやらない企業もある。
また、各社は機器の電力使用に対する「水利用効率」の改善ばかりに過度に集中しているが、それだけでは全体像が見えず、急拡大するデータセンターが及ぼす影響がかえって分かりにくくなっている。
開示内容が誤解を招く場合も多い。エアトランクはサステナビリティ報告書で、使用水の85%が冷却過程で蒸発すると認めている。これは大きな問題で、水が事実上、地域の生態系から消失しているということだ。それにもかかわらず、同社はこの過程を「環境に戻される」と表現している。Breakingviewsがこの問題を指摘すると、エアトランクは文言の修正が必要であることを認めた。
いずれにせよ、拠点の敷地内で使われる水だけを見ても全体像はつかめない。まず、データセンターは大量の電力を消費するが、その電力は今でも主にガスと石炭でまかなわれており、これらの発電にはさらに多くの水が使われている。
例えばローレンス・バークリー国立研究所の試算によると、23年に米国のデータセンターが直接消費した水が約660億リットルだったのに対し、電力消費を通じた「間接的」な水使用量は8000億リットルに上った。つまり、フアン氏は、新システムにより電力消費が6%削減されると語ったが、それは企業の利益には確かにプラスでも、貯水池の状況が大きく改善するほどの効果はないということだ。
第2に、データセンターは米西部アリゾナ州、東部バージニア州、シンガポールなど特定の地域に集中する傾向がある。しかしこうした地域の多くは慢性的な水問題を抱えている。S&Pグローバルによれば、データセンターのほぼ半数は水ストレスが高い、あるいは非常に高い地域にある。これらの拠点の約80%はAIブーム以前のクラウド業務向けであり、フアン氏やスミス氏が言及した最先端のクローズドループ型システムに更新される可能性は低い。
こうしたデータセンター集中地域はデータセンター用半導体製造工場を擁する場合もある。一例として台湾積体電路製造(TSMC)(2330.TW)は米西部アリゾナ州で事業を拡張中だが、同州では米半導体大手インテル(INTC.O)も操業している。こうした半導体工場は半導体洗浄に超純水が欠かせず、通常再利用率はごく一部にとどまる。業界関係者によると、半導体製造工場は1週間で食品加工工場の年間使用量に匹敵する水を消費することもある。
一方、気候変動の影響で水供給の予測可能性は一層低下している。アリゾナ州フェニックスはコロラド川に大きく依存しているが、その流量は20年間減少し続け、主要な2つの貯水池は貯水率が30%にとどまっている。
オーストラリア・メルボルンは今世紀初頭に10年にわたる干ばつを経験している。しかし、現地のある水道事業者は、年間計200億リットルの許可を求める19件のデータセンター申請を審査中だ。
エアトランクやアマゾン・ドット・コム(AMZN.O)、マイクロソフト、エヌビディアなどが進める取り組みを否定はしない。しかしAIにまつわる水資源安全保障の問題を解決するには、当局とのより緊密な協力、そして何よりも化石燃料や原子力ではなく水効率の高い再生可能エネルギーでデータセンターを稼働させることが不可欠だ。いくつかの企業は正しい方向に進みつつあるが、道のりは依然として遠い。
フアン氏の発表への衝撃から空調関連企業はいったん株が売られてしまったが、投資家もどうやら状況を理解した様子で、5社は全て株価が1月の安値を大きく上回って取引されている。100年以上の歴史を持ち、かつてはトラクター用ラジエーターで知られたモディーンは株価が83%も急騰した。これは、ビッグテックが抱える「水リスク」がまだ何も解決していないと受け止められていることを示す何よりの証拠だ。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)