1943年に当時のルーズベルト米大統領は、米国の国防にとってサウジアラビアを守ることは「不可欠」だと主張した。カタールやアラブ首長国連邦(UAE)といった他のペルシャ湾岸諸国は、この主張は自らにとっても同等に重要なものだとみなすようになった。しかし米国・イスラエルによるイラン攻撃に伴って、これら湾岸3カ国が約2週間にわたってドローンとミサイルよる報復攻撃にさらされている以上、様相が異なってきているように見える。
米国とサウジのムハンマド皇太子、UAEのムハンマド大統領、カタールのタミム首長の伝統的な友好関係を踏まえれば、3カ国首脳が現在抱える不快感を公式に表明する公算は乏しい。ただ米国にメッセージを送る上では、さまざまな金融面の手段が残っている。
湾岸諸国の不安は本物だ。ドバイの富豪カラフ・アルバブトゥール氏は、湾岸地域が戦争に巻き込まれるコストが果たして無視できるのかと疑問を投じた。湾岸アラブ諸国の政府に近い複数の関係者はロイターに対し、トランプ米大統領は主としてイスラエルが描いた筋書きに乗って湾岸諸国を戦争の渦中に引きずり込んだとの見方が地域内では大勢で、誰もが同盟国に及ぼす政治的・経済的影響は十分考慮されなかったと口をそろえていると明かした。
そうした不快な気持ちになるのも無理はない。サウジ、カタール、UAEの各国は多額の現金を投じて目に見える形でトランプ氏を支持。これは従来の規範的枠組みを超えた動きだった。昨年5月のトランプ氏による湾岸訪問に先立ち、UAEは同氏に豪華なボーイング747機をプレゼントしたほか、アブダビ王族と関係する企業はトランプ氏の一族が手がけるステーブルコイン事業「ワールド・リバティー・ファイナンシャル」の持ち分を取得した。一方で湾岸3カ国は、最終的にネットフリックスに競り勝ったパラマウント・スカイダンスによるワーナー・ブラサース・ディスカバリー (WBD.O)買収に合計で240億ドルの資金を拠出している。パラマウントによるこの買収は、トランプ氏と近いエリソン一族が支援していた。
このような「貸し」がある湾岸諸国だけに、トランプ氏にイラン攻撃を思いとどまってくれないかと持ちかければ、少なくとも聞く耳は持ってくれるとの期待があった。ところが現実には、終わりの見えない戦争に向き合わざるを得なくなくなり、ホルムズ海峡を事実上封鎖されたため主要な化石燃料の輸出ルートをふさがれてしまった。さらにピーターソン国際経済研究所のアドナン・マザレイ氏によると、湾岸諸国は借り入れコストが跳ね上がる中で、防衛費や打撃を受けたインフラなどの復興費用増大、外国からの直接投資の縮小にも見舞われている。
だから恐らく湾岸諸国は、打てる手を検討しているだろう。ロイターは11日、ある湾岸諸国高官の話として、地域の経済規模上位4カ国のうちの3カ国で政府系ファンドを通じて世界中に広がっている投資の見直しが進んでいると伝えた。その主な理由は、戦争で生じた損失の穴埋めだが、そうした見直しが米政府に対する苛立ちの表意として使われてもおかしくない。
注目度の高い実行手段としては、パラマウントの買収から手を引くか、サウジのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)が550億ドル規模のエレクトロニック・アーツ(EA)(EA.O)買収に投じている300億ドルの出資を白紙に戻すという道がある。どちらも良好なリターンは約束されておらず、あからさまな拒絶を意味する。ただ残念ながら、実業家イーロン・マスク氏がツイッターを買収した際と同じように、ほぼ完了した取引から法的に逃れるのは極めて難しい。
それでもなお、昨年のトランプ氏の湾岸訪問時になされた投資の約束を大幅に見直す余地は残されている。この訪問を受けて最終的にカタールは1兆2000億ドル、サウジは1兆ドル、UAEは1兆4000億ドルもの対米投資を約束したものの、これらは10年前後にわたる長期的な約束なので、昨年時点で具体的な契約を伴っていた案件はごく一部に過ぎない。
AIバブルが崩壊する可能性を考慮すれば、アブダビの投資会社MGXはオープンAIの株式や、トランプ氏が後押しする米国の人工知能(AI)インフラ整備事業「スターゲート」への出資を引き揚げるべきだとの見方もできる。もっともUAEはAIの地域拠点としての地位確立に全力を注ぎ、依然としてエヌビディア製半導体に依存しているので、そうした行動は米国よりもUAE自身に大きな打撃を与えてしまうかもしれない。
とはいえ米政府にメッセージを送る方法は、それほど目立たない形で存在する。昨年5月に約束した中で戦略的重要性が低いと思われる案件には、サウジのSURJスポーツ・インベストメンツによる40億ドル規模の米国との提携や、米国の液化天然ガス(LNG)への支援などが挙げられる。2030年までに防衛支出の50%国産化を目指すサウジの動きは、中国やトルコのドローンメーカーとの米国抜きの提携を通じて加速しており、サウジ政府は欧州との防衛関連契約拡大でその姿勢をさらに鮮明にすることもできる。
湾岸諸国首脳としては、投資の約束撤回は避ける方が得策だと思うかもしれない。しかしイランで体制転換が起きる現実味が薄れた今、よりリスクが高く、米国を頼れない状況に陥るかもしれない。そうした事態になっても、政治面のみならず経済金融面での悪影響は伴わないと考える方が奇妙と言える。
●背景となるニュース*ある湾岸諸国の高官は11日ロイターに、ペルシャ湾岸の3カ国が政府系ファンド(SWF)を通じた投資について、米国とイスラエルによるイラン攻撃で発生する損失を想定して見直しを進めていると語った。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)