欧州最大の経済大国であるフランスとドイツが、ようやく中国問題で足並みをそろえつつある。だが、残念ながらその方向性は的外れだ。
フランスのマクロン大統領とドイツのメルツ首相は9月中に中国との貿易不均衡の是正に向けた共同ロードマップを公表する予定。中国税関当局によれば、中国の世界全体での貿易黒字は2026年1―7月に総額6870億ドルという巨額に達した。両首脳は人民元の上昇を促すことに重点を置いており、それによって中国国内の消費や輸入が増えると考えている。
しかしこの考えは因果関係の捉え方が逆だ。まず需要が拡大し、その結果として輸入が増え、為替レートも上昇する。つまり本当に貿易不均衡を是正するには、中国政府がこれまで中途半端に進めてきた家計消費の回復策に本腰を入れるよう説得しなければならない。
メルツ氏が、人民元は約25%過小評価されていると主張すること自体は、必ずしも間違いではないが、中国のコスト競争力は為替だけで説明できるものではない。さらに中国政府は、1985年の「プラザ合意」の再来を強く警戒している。当時、複数国が米ドルに対して自国通貨を切り上げることに合意したが、中国共産党の幹部らは、その後の日本経済が1990年代に長期停滞へ陥った大きな原因の一つだと考えている。
よって欧州の交渉担当者がより効果的な交渉材料を求めるのであれば、為替ではなく、中国にとってより身近な弱点である雇用問題に注目すべきだ。
中国共産党は、大規模な失業の存在を示唆されることさえ嫌っており、公式の失業率はほぼ常に5%前後で推移。こうした数字は、中国の習近平国家主席が福祉制度の大幅拡充に消極的なことを正当化する材料にもなっている。しかしながら、より実態に近い統計を見ると、失業問題は実際には拡大している状況がうかがえる。
昨年、失業給付の受給者数は560万人に達し、今世紀に入ってからの最高水準を記録した。また首都経済貿易大学の研究者らは、不安定で低賃金な働き方を示し、不完全雇用の代理指標ともされる「柔軟就業(フレキシブル雇用)」の人数が、今年3億2000万人に達すると予測している。これは新型コロナ禍の2倍に相当する。
こうした問題の発端は、習氏が2020年に開始した過剰債務を抱える不動産開発会社への締め付け政策にある。債務削減の取り組みによって、不動産は中国経済成長のけん引役としての地位を失い、その結果、家計資産も大きく損なわれた。
家計はその反動として貯蓄を増やし、国内需要は低迷。物価上昇率は大幅に下振れ、当局は利下げを余儀なくされた。その結果として人民元も下落したのだ。
確かに、中国当局はこうした状況をある程度容認してきた。なぜなら電気自動車(EV)など戦略産業の輸出競争力強化につながったからだ。
とはいえ、一部の欧州連合(EU)関係者が考えるように、中国政府が需要低迷自体を最終目標としているわけではない。輸出産業だけでは経済全体の中で十分な規模を持たず、安定した雇用を支えることはできない。このため、中国政府はこれまでも消費回復を目的とした小規模な政策を次々と打ち出してきた。
したがって、欧州がより強い人民元と均衡の取れた貿易関係を望むのであれば、その最大の希望は中国政府がより大胆な政策に踏み切ることにある。一例として下落が続く不動産価格に明確な下支え策を講じることだ。それは習近平氏にとって苦い決断となるかもしれないものの、失業の増加やEUによる制裁的な対抗措置を招くよりはましだろう。
そして欧州の交渉担当者が自らの主張に説得力を持たせたいのであれば、中国共産党が好んで使う言葉を借りればよい。要するに「ウィンウィンの協力」だ。
●背景となるニュース
*フランスのマクロン大統領とドイツのメルツ首相は7月、中国の貿易慣行への対応策をまとめる「仏独ロードマップ」を9月までに策定すると発表した。マクロン氏が訴えたのは「為替レートや金融市場の開放をめぐる対話」を進める必要性だ。一方メルツ氏は、中国の経常黒字が巨額となっている主因として「人為的に低く抑えられた人民元」を挙げ、人民元が「長年にわたって約25%過小評価されてきた」と主張している。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)