ソフトバンクグループ (9984.T)にとって、関連当事者との利害関係に伴うリスクはつきものだ。しかし、そんな同社にとっても、傘下企業SBエナジーの抱えるリスクは際立っている。再生可能エネルギー事業者だった同社は現在、人工知能(AI)向けデータセンター運営会社への転換を進めており、企業価値500億ドルとも目される株式上場を目指している。コンピューティング能力が不足している今、同社の上場には理にかなった面がある。しかし、サーバーファーム運営会社の新規株式公開(IPO)が相次ぐ中、投資家にとってSBエナジーの複雑さを受け入れる余地は乏しい。
株式公開には絶好のタイミングだ。米金融大手バーンスタインによると、世界のデータセンターの空き容量率は今年、推定4.9%まで低下した。AIを背景とする需要が、新規センターの稼働よりも速いペースで既存の容量を吸収しているためだ。AI新興企業アンソロピックが、スペースX(SPCX.O) が提供する計算インフラ容量を利用するため月に12億5000万ドルも支払っていることは、利用可能な容量をすぐに確保するためなら買い手が巨額の支払いをいとわないことを示している。
一方、競合各社も相次いで上場に向けた準備を進めている。データセンター運営会社バンテージ・データ・センターズが約1000億ドルの企業価値でのIPOを目指しているほか、英国の同業エヌスケールも米国での上場を検討している。
しかし、SBエナジーが9月1日に明らかにしたIPO目論見書には、多くの留保事項が記載されている。同社は現在、データセンター運営から全く収入を得ていない。2026年上期の売上高1億3900万ドルは、従来から手掛けてきたエネルギー事業によるものだ。このため、過去の業績から、同社が示す事業計画や業績見通しが実現するかどうかを判断するのは難しい。
同社が抱えるデータセンター事業の契約済み案件残高は4300億ドル相当だが、契約期間が異例なほど長い。今後6年間に発生すると見込まれているのは約10%にすぎず、大部分はその後に集中している。こうした将来計画を信じるには、 業界が許認可や電力、設備、建設の遅延問題を抱えている点も考慮する必要がある。
顧客が集中しているのも問題だ。契約済みのデータセンター容量は合計8.8ギガワットに上るが、その全てをSBエナジーの出資者であるソフトバンク、もしくはオープンAIのいずれかがリースし、その大半をオープンAIが占める。オープンAIが投資を抑制したり、AI需要が期待外れに終わったりすれば、巨額の受注残も確実な収益源とは見なせなくなる。
最も重要なのは、SBエナジーは関連当事者との契約・取引関係が異例なほど複雑に入り組んでいる点だ。ソフトバンクはSBエナジーの支配株主であるだけでなく、最終親会社、顧客、保証人、商標のライセンサーでもあり、その対価として連結粗利益の1%を受け取っている。
オープンAIも、主要テナントであると同時にソフトウエアの供給会社であり、SBエナジーとの大型契約に関連して同社から新株予約権(ワラント)を受け取っている。ここに、さらにエヌビディア(NVDA.O) が絡む。エヌビディアは30億ドルを投資する予定で、半分の株式はIPO価格より10%安い価格で取得できる条件となっている。また、オープンAIのリース債務の一部も保証する。
確かに、データセンターの容量は足りない。しかしデータセンター運営会社のIPOが不足しているわけではない。SBエナジーが抱える複雑な関係や不確実性を考えると、一般投資家が高い評価額を受け入れるとは考えにくい。
●背景となるニュース
*ソフトバンクグループの傘下企業で、データセンター事業を手掛けるSBエナジーは1日、米国での新規株式公開(IPO)に向けた目論見書を公開した。 もっと見る
*SBエナジーは新株を発行する計画。ロイターは5月26日、同社がIPOで500億ドルを超える企業価値を目指す可能性があると報じていた。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)