コラム:FOMCと日銀会合、金融政策ウイークの注目点=植野大作氏 07-Sep 15:55

来週は日米両国で金融政策イベントが予定されている。米連邦公開市場委員会(FOMC)、日銀金融政策決定会合のいずれもが、結果次第でその後のドル/円の相場形成に重大な影響を及ぼす可能性がある。

本稿では、現時点で想定される結果とその後のドル/円相場の行方について、筆者の見解を示しておきたい。

先に結果が判明するのは、15―16日に開催されるFOMCだ。日本時間では17日午前3時に声明文が公表され、その30分後からウォーシュ米連邦準備理事会(FRB)議長の記者会見が予定されている。

5月22日に第17代のFRB議長に就任したウォーシュ氏は、その後に開催された6月、7月のFOMCで政策金利の現状維持を決めつつも、声明文から先行きの方向性を示唆するフォワードガイダンスを削除。その後の記者会見で​もその時点で想定している金融政策の方向については、市場にヒントを与えない曖昧な回答に終始していた。

ただ、8月下旬のジャクソンホール会議でウォーシュ氏が当面の政策運営ではインフレの制御に重点を置く姿勢を強調。「基調インフレが十分な速度で明確に目標に向かっているとの確信を持てないならば、‌まだやらなければならない仕事がある」と述べたことで、FRBが年内に繰り出す「次の一手」が利上げになる可能性が意識されている。

現在、米政策金利先物市場では、次回のFOMCでの0.25%刻みの利上げ予想確率が6割程度に達しているため、実際にその通りの決定が下されても市場に極端なサプライズは走らないだろう。ただ、筆者が所属するチームのエコノミストを含め、「6会合連続の金利据え置き」を見込んでいる4割程度の市場関係者にとっては、利上げが決定された場合は予想外となる。声明文公表直後のドル/円相場は上振れの初期反応を示すだろう。

トランプ米大統領がFRBに対して利下げの継続を求めていることは、先週のSNSへの投稿――「FRBは素晴らしい新指導者の下、賢明な対応をとる必要がある」、「利下げしなければ対米黒字国との貿易を止める」――などから周知の事実となっている。このため、仮に来週のFOMCで大統領の意向に逆らう利上げが毅然と実施された場合、米金融政策運営の独立性への信認も高まり、中長期的に見たドル価値の安定にも寄​与しそうだ。

一方、来週のFOMCで我々の想定通りに政策金利の現状維持が決定された場合は、声明文公表直後のドル/円相場は下振れの初期反応を示す可能性が高そうだ。ただ、9月の利上げ観測が否定されても、年内の利上げ観測が消えなければ、そのままズルズルとドル/円相場が下落トレンドに向かう可能性は低いだろう。

「5会合連続の金利据え置き」を決めた​前回7月のFOMCでは、利上げを求めて反対票を投じたメンバーが12人中3人と異例の割合に達していたことが話題になった。7月分の米個人消費支出価格指数で測定された直近の基調インフレ率が前年比プラス3.3%とFRBの目標2%から上振れている状況下、利上げ派の人数が減っている可能性は低そうだ。4人⁠以上に増えていた場合は2次反応でドル高方向に切り返すことになるかもしれない。

また、今回のFOMCでは政策金利の予想分布も更新される。前回6月に提示された分布の中央値では、年内に0.5回分の利上げが想定されており、3月時点で示されていた1回分の利下げ予想が激変したことが話題になった。来週のFOMCで3カ月ぶりに提示される最新の分布で年内の利上げ想定回数が1回以上に増えていた場合、​米国の利上げ観測は維持される。上方修正の幅に比例してドル/円相場の底上げ要因になるだろう。

一方、米FOMCの結果が判明した翌日、17─18日にかけて開催される日銀の金融政策決定会合については、翌日物金利スワップ(OIS)市場が織り込んでいる0.25%刻みの利上げ予想確率が、本稿執筆時点で97.1%と、ほぼ100%近傍の水準にある。今年6月以来、3カ月ぶりとなる追加利上げは、ほぼ確実視されている。

8月31日から9月1日にかけて米​国で開催された20カ国・地域(G20)財務相・中銀総裁会議に先だち、8月30日に植田日銀総裁と個別に会談したベセント米財務長官が、日銀に対して「過度な為替変動を回避するために、健全な金融政策の策定とその伝達が重要であると強調」した上で、「円の大幅な過小評価に対処するための日本による決然とした市場・金融面での措置を強く支持する」との意向を表したことが、米財務省の公表によって明らかになっている。

米国の財務長官が日銀の専管事項である金融政策について口出ししたことを公式の文書で表明するのは、極めて異例の事態と言わざるを得ない。もし逆の立場で片山財務相がウォーシュ氏と会談した後に米国の金融政策について何らかのアドバイスを与えたことを文書で公表したら、大変な騒ぎになるはずだ。「7月31日に日米協調円買い介入の実施に応じてもらって借りを作った日本政府と日銀は、米財務省の要請に応じざるを得ないのではないか」との見方が市​場関係者の間で広がっているようだ。

このため、来週の会合でもし日銀が利上げを見送ったなら、市場に強烈なサプライズが走ってドル高・円安が進むだろう。4月30日から5月6日にかけて政府が実施した総額11.7兆円のドル売り・円買い介入の効果は約1カ月半で切れたが、来週の会合で日銀が米財務省のアドバイスに応じなかった場合、7月末以降に政府が行ったとみられる「月間過去最大=総額15.4兆円」のドル売り介​入による円安抑止効果の縮減が進む可能性が高そうだ。

ただ、来週の金融政策決定会合で利上げを実施しなかった場合にドル/円相場が急伸し、政府が円安阻止の防衛線を設置したとみられる「1ドル=160円前後の壁」が再び突破されるリスクがあることは、植田総裁以下、大方の日銀会合のメンバーも承知しているだろう。日銀が利上げを見送る可能性は非常に低そうだ。来週の会合では0.25%刻みの利上げが決定され、‌政策金利は1.25%に引き上げられ⁠る可能性が濃厚だ。

もっとも、来週の日銀会合で市場がほぼ確実視している0.25%刻みの利上げが決定されてもサプライズにはならない。声明文公表直後のドル/円相場はおおむね「無風通過」となりそうだ。市場の一部では今回の会合で日銀が0.50%刻みの利上げに踏み切るとの思惑も明滅しているため、仮に市場予想通りの0.25%刻みの利上げが決定されたとしても、「倍速利上げ」を主張して反対票を投じたメンバーが1人もいなかったり、「政策金利の現状維持」を主張して反対票を投じた委員が6月の1人から2人に増えたりしていた場合、ドル/円相場は円安の初期反応を示す可能性もあるだろう。

その後は植田総裁が記者会見で示す今後の金融政策の運営方針に市場の注目が移ることになる。実際の内容は見聞するまで分からないが、先週のG20の後に市場の一部で急速に盛り上がっている利上げペースの加速観測に釘を刺すようなメッセージが送られるのではないかと筆者はみている。

改めて指摘するまでもないが、日本の金融政策は日銀が専管事項だ。日銀の金融政策が、「外国からの圧力」に左右されているとの印象を市場に与えるような事態は、断じて避けねばならない。その意味で、米財務省がG20におけるベセント氏と植田日銀総裁の会談概要を公表したのは逆効果になる可能性がある。米財務省が日銀に対し​て事実上の利上げ加速を要請したのではないかとの疑念を市場が抱いているタイミン​グで、植田氏がそれを追認したと受け止められるようなコメントを発するとは思⁠えない。

また、来週の会合で日銀が利上げに踏み切った場合、前回6月会合での利上げからの間隔は、日本としては異例の3カ月に短縮されることになる。金融政策変更の効果が実体経済に波及するまでの時間差は、一般的には少なくとも半年程度はあると言われていることも勘案すると、今後も同じ勢いで日銀が利上げを進める可能性は低いのではないか。

実際、日本の消費者物価上昇率の直近7月の実績をみると、生鮮食品とエネルギーを除いた基調インフレは前年比プラス1.9%と政府と日銀が掲げる政策目標=2%より少し低い水準にある。冷静に見れば、今このタイミン​グで利上げの加速が必要な物価情勢であるのか否か、慎重に見極める時間が必要だろう。

もちろん、日銀が円安を止めることだけに焦点を絞るなら、利上げの加速は有効な手段の一つになる。だが、足元の物価情勢や日本の潜在成長率に照らして高過ぎるレ​ベルへの利上げを急ぐと、中小企業の資金繰り倒産や⁠政府の利払い負担が増加するなどの副作用が強まり、国内景気の悪化を招いた場合は日本政府との関係がギクシャクしかねない。

植田日銀総裁の記者会見が現在の市場の織り込みに比べてハト派的だと解釈されるような内容になった場合、G20後に進んだ1ドル=155円台までのドル安・円高の巻き戻しが始まり、160円台復帰に向けた相場反転の契機になる可能性もあるだろう。日米金融政策ウイークの結果に注目したい。

編集:宗えりか

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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