コラム:高市首相・植田日銀総裁会談を「解読」する=上野泰也氏 28-May 10:10

5月22日の夕方、経済財政諮問会議が首相官邸で開催される前に、高市早苗首相と植田和男日銀総裁の会談が行われた。

追加利上げの問題では、首相と日銀の間に見解の相違があるとみられている。さらに、米国のベセント財務長官が「植田氏は優れた中央銀行総裁だ。必要なことを行う余地が与えられれば、優れた金融政策を実現すると確信している」とロイターのインタビューで述べ、日銀の追加利上げを容認するよう事実上促したことから、高市氏がどのような動きをするのかが市場の内外で注目されている。

高市首相と植田総裁の直接会​談は、5月22日が3回目である。

昨年10月21日に高市政権が発足した後、11月12日の経済財政諮問会議で公の場での両者の初顔合わせが実現したものの、1対1の会談は同月18日が最初になった。約25分間行われたこの会談で、植田総裁の説明を聞いた高市氏が「そういうことかな」と述べたことから、‌日銀の見方に一定の理解を示したのではという話になった。

2回目の会談は、衆院選で自民党が圧勝して高市氏の政治パワーが格段に増した後、今年2月16日である。植田氏は会談後、約15分間のやり取りは「一般的な経済・金融情勢の意見交換」であり具体的な内容は明かせないとしつつも、金融政策についての首相からの要望は「特になかった」と説明した。

しかしその後、毎日新聞が複数の関係者の話を元に、首相は日銀の追加利上げに難色を示していたと報じた。両者には利上げ問題で緊張関係がありそうだと、市場はみている。

そして、3回目の会談が5月22日に約20分間行われた。問題は3回目の会談についての、植田氏の説明内容である。経済財政諮問会議が終わった後で記者団のぶら下がり取材に応じた際のニュース映​像から植田氏の発言を筆者が書き起こしたものをもとに、法律のコンメンタール(逐条解説)風にコメントを付加してみた。

植田氏「数カ月に一回ごとくらいにずっとお会いしてきてるんで、その一環として今日お会いするチャンスをいただいた、お互いに日程調整​しながらということです」

→1回目と2回目の首相・日銀総裁会談のインターバルは90日、2回目と3回目のそれは95日であり、数カ月に一回ぐらい定期的に会談が設定されているという植田総裁の説明は成り立つ。ベセント氏の来日とい⁠う動きがあったため、3回目が急きょ設定されたのではないかという先入観を抱きがちだが、そうとも言えない。もっとも、3回目の会談の内幕を知るには、マスコミ各社の政治部などの取材を通じて何かが出てくるのを待つしかない。

植田氏「話の大まかな内容としては、中東情勢を踏まえて、経済​・物価・マーケット情勢についてお互いに意見交換した、その中で、私どもの金融政策の考え方についても私どもからは説明させていただいた、というところでございます」「(市場の6月利上げ観測といった)そういう具体的な話は特にいたしませんでした」

→中東情勢をうけたリスクとしては、景気の下振​れよりも物価の上振れのリスクの方を日銀はより強く警戒しており、政策委員会で審議委員サイドから早期利上げを求める動きが強まってきたことを、植田氏は高市氏に説明した可能性が高い。

日銀の側には、ベセント氏の発言を追い風として意識しながら、そうした説明を首相に対して行っておくことにより、6月にも追加利上げを行う可能性が高いことについて、いわば「仁義を切った」形を作れたのではという認識があるかもしれない。

具体的な話は特にしなかったと植田氏は述べたが、6月会合で利上げするといった明確な予告はしていない、あるいは、市場の6月あるいは7月会合での利上げ織り込み確率の高さといった個別具体的な説明はしなかった──といった含意で逃げたのだろう。

植田氏「総理​からは政府の経済対策の諸側面についていろいろ話はありました」(ここだけは手元の紙を見ながら)「1つだけ具体的に申し上げますと、政府・日銀のアコードに沿って、政権が、高市内閣が進める物価高対策や危機管理投資・成長投資といった取り組みについて理解の上、日銀としても適切な政​策を実行してほしい、というお話がございました」

→6月3日に26年度補正予算案を国会に提出し、6月中に日本成長戦略会議が戦略17分野を軸に官民投資のロードマップ(行程表)をとりまとめ、夏前に社会保障国民会議が消費税減税をどうするかを含む中間取りまとめを行い、例年よりも遅れて7月に「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)‌を閣議決定するなど、⁠政府・与党が「責任ある積極財政」を展開していく上で重要なイベントが目白押しである。そのことについて高市氏は植田氏に説明し、そうした経済政策の流れを妨げるような動きを日銀はしないでほしいと要請したとみられる。植田氏がわざわざ紙を取り出して具体的に説明したことが、この問題がいわば「取り扱い注意」であることを示唆している。

高市氏としては、ベセント氏からの事実上の利上げ容認要請もあり、日銀の追加利上げをいつまでも強引に止めようとするわけにはいかないだろう。

だが、首相としては日銀の利上げ路線に、可能な範囲でブレーキをかけておきたいはずである。審議委員が主導して日銀の利上げが加速するような事態は回避したい。その一方で、仮に国内景気の下振れが先行き明確になってくる場合に、利上げを進めた日銀の責任を問うことができるよう、ここで具体的に協力要請を行っておいた面もあるのだろう。

なお、7月に決定される骨太の方針には、高市氏から植田​総裁への上記の要請に沿う内容を含む形で、日銀の金融政策に関す​る記述が盛り込まれる可能性がある。

植田氏(高市氏との間で金融政⁠策について一致しているかとの問いに)「それについては、今後とも十分な意思疎通を図っていきたいというふうに思っております。その点についてはお互いに一致をしております」「さまざまな側面について有益な意見交換ができたと思っております」

→日銀法第4条が定める政府との「十分な意思疎通」については「お互いに一致している」と植田氏は述べた。逆に言えば、その他の点では両者の間に意見の食い違いがあるということだろう。

「有益​な意見交換」を経て、植田氏ら日銀執行部は政府との見解相違を残したまま、6月の次回金融政策決定会合で追加利上げに動くのだろうか。オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)市場の6月利上げの織り込みは7─8割に​なっており、現時点では妥当なところだ⁠ろう。

いずれにせよ、植田氏の講演が6月3日に予定されており、そこで発せられるメッセージの内容がおそらく決定的な手がかりになるだろう。

編集:宗えりか

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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