12月の金融政策決定会合で日銀が0.25%の利上げをしたにもかかわらず、円安進行が止まらない。これから年末年始にかけて、やや投機的な取引が増えて予想以上に円安が進むのではないかと強く警戒される。筆者は、次の利上げが多くの人が考えるよりも前倒しで行われる可能性が高まっているとみる。
もしもドル/円レートが1ドル160円前後になれば、通貨当局は口先介入、レートチェック、そして為替介入へと動いていくだろう。為替介入が実施されれば、相当に円高方向に動かされるだろうが、その効果はせいぜい1-2カ月であろう。その次の段階として、日銀の利上げが控えている。
12月の植田和男日銀総裁の記者会見は、円安を理由にして、潜在的な輸入物価上昇の圧力を警戒して利上げを決めたことを暗に伝えるものだった。ならば、円安が容認できないレベルへと進めば、そこで再び利上げを試みることはあり得る。今後、円安が為替介入でも止まらなければ、思ったよりも早いタイミングで追加利上げとなるだろう。
<日銀の慎重姿勢>
今、円安が進んでいる原因は、日銀が利上げに消極的な姿勢をみせたことにある。総裁会見では、中立金利についてもっと明確なレンジを示して、先々の利上げを段階的に進めるというメッセージを出すと考えられていた。しかし植田総裁は、先行きの利上げに踏み込んだ発言をしなかった。この曖昧さは、円安進行を半ば容認しているとも捉えられた。
どうして消極的だったのかは謎である。推測するに、長期金利が2%を越えて上昇していく流れを後押ししたくなかったからだろうと考えられる。仮に円安阻止の利上げを強調していたら、長期金利はより大きく上昇していただろう。
植田氏は、円安阻止を選ぶか、長期金利上昇の抑制を選ぶか、という二者択一を迫られた。そこで後者を選んだと筆者は考えている。
もしも先行きの利上げをアナウンスしていたならば、高市政権から利上げけん制の発言が飛び出していたかもしれない。すると、円安阻止は水泡に帰して、円安進行に向かっていただろう。反対に、今回のように先行きの利上げを強くアナウンスしない場合、円安が進行する代わりに、利上げをせかされる状況がすぐにやってきて、追加利上げに踏み出すことになる。つまり、受動的な利上げを求められる状況になっていく。植田氏はそこまで深読みして、あえて円安阻止に積極的には動かなかったのではないか。
<次はいつか>
2026年前半の金融政策決定会合の予定(2日目)は、1月23日、3月19日、4月28日、6月16日、7月31日という日程である。このうち、1月、4月、7月には展望レポートが発表される。また、3月19日は春闘の集中回答日の直後となる。今後、円安の進行次第で次の利上げは決まってくるだろう。
為替に影響を与えそうなのは米国の金融政策を巡る日程である。特に、トランプ政権が指名する米連邦準備理事会(FRB)次期議長の影響がキーになると思える。具体的には、1月末にその人物がFRB理事に指名されて、次期FRB議長含みで送り込まれる。それから、5月のパウエル現議長の任期満了を待って次期議長に就任する。現状、連邦公開市場委員会(FOMC)での政策金利見通しは26年末までにあと1回の利下げが想定されているに過ぎないが、2-4回くらいまで追加利下げを決める可能性が出てくる。ここではFOMCメンバーの抵抗があり、次期議長の思う通りにはいかないシナリオも十分あり得る。その場合は、ドル/円レートは円安ドル高に傾くだろう。
また、毎月発表される消費者物価指数(CPI)の動向も気になる。25年11月の米CPIは、前年比が2.7%とインフレリスクがあまり感じられない数字である。26年前半のCPIが3.5-4.0%といった高いインフレ率に振れてしまうと、FRBの利下げが成り立たなくなり、円安・ドル高が進むだろう。
日銀のシナリオを考えると、筆者は3月、4月、6月のいずれかに次の利上げがあってもおかしくないとみる。3月は、春闘の賃上げ率が強い数字になると利上げが決まるだろう。4月のタイミングは、次の短観が出て、そこで26年度の企業の事業計画が明らかになり、トランプ関税の影響を完全に乗り越えたかどうかが分かる。6月は企業の25年度決算が出そろって、26年度見通しが分かるタイミングになる。なお、1月は円安が急速に進んだ場合、「次回会合(3月)で利上げを検討する」と予告する形になるとみている。
編集:宗えりか
*このコラムは12月24日にLSEGグループのニュース・データ・プラットフォームWorkspaceに掲載されました。当時の情報に基づいています。
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。
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