マクロスコープ:円安・債券安、高市政権内で強まる警戒感 市場発信にも配慮か 21-Nov 16:40

高市早苗首相は21日、総合経済対策を閣議決定した。大型減税を含む規模は21.3兆円、一般会計支出の増加分は17.7兆円とする。コロナ禍以降で最大規模となる一方、急伸する円安、債券安に政権内の警戒感が強まっているとの見方もある。専門家からは日銀の年内利上げを予想する声も出ている。

<片山氏のタブレット端末>

「当初予算と補正予算を合わせた国債発行額は昨年度の42.1兆円を下回る見込みだ。財政の持続可能性にも十分配慮した姿となっている。『責任ある積極財政』はプロアクティブな、先を見据えた財政政策であり、決していたずらに、拡張的に規模を追求するものではない」。対策の閣議決定後、高市氏は首相官邸で記者団にこう述べた。大型経済対策による財政悪化リスクへの懸念を少しでも軽減しようと、マーケットに向けて強いメッセージの発信に注力した形だ。

高市氏のこうした発信には伏線があった。17日午後、対策の策定に携わる政権幹部が官邸で高市氏を囲んだ。対策の規模や項目の最終調整作業だ。事情を知る政府関係者によると、その場で片山さつき財務相が自らタブレット端末を開き、高市氏に長期金利のチャートを示した。その上昇ぶりを高市氏は神妙な表情で確認していたという。同関係者は「片山氏は警戒感を高めている。高市氏も円安、債券安はかなり気にしているようだった」と話す。

この日、円債市場では新発10年国債利回り(長期金利)が前営業日比3.0ベーシスポイント(bp)上昇の1.730%と、2008年6月以来の高水準(債券価格は下落)となった。

<空振り続く「口先介入」>

とはいえ、円相場に関する政権内の警戒感が市場に伝わっているとは言いがたいのが現状だ。これまで片山氏や木原稔官房長官が試みた「口先介入」は、いずれも効果を発揮したとは言えない。21日には片山氏が就任後初めて「(為替介入も)当然、考えられる」と踏み込んだが、直後の相場の反応は限定的だった。

市場からは「介入をちらつかせ、けん制を強めたという印象は受けない。介入前夜との印象もない」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志・主席エコノミスト)との声も聞かれた。

<「日銀の意地の見せ所」>

こうした状況の中で注目度を増しているのが、12月18、19日に開かれる日銀の金融政策決定会合だ。日銀の小枝淳子審議委員は今月20日の記者会見で、金利の正常化は「適切なペースで進めていくことが必要だ」と述べる一方、具体的なタイミングは「足元の経済・物価状況について確認しながら判断していく」とした。

円安に歯止めがかからなければ、更なる物価高が政権の体力を奪いかねない。前出の政府関係者は「利上げの時期は見通せない」と断りながらも、「次の決定会合は日銀の意地の見せ所だ」と語った。

利上げの可能性を専門家はどう見ているのか。

農林中金総合研究所の理事研究員、南武志氏は「小枝審議委員の講演や会見も利上げに前向きだった。日銀は12月利上げに踏み切るだろう」と指摘。その上で「7―9月の国内総生産(GDP)はマイナスだったが、政府の総合経済対策も最大の目玉は物価対策だ。円安が進むと政府も困る。円安阻止のために高市政権としても日銀の利上げを認めざるを得ないとみている」と話した。

(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)