アングル:金利3%でも衰えぬ起債ニーズ、企業はコスト抑制や買い手開拓に腐心 08-Sep 14:17

長期金利の指標である新発10年国債利回りが3%近くで高止まりする中、企業の資金調達コストが膨らんでいる。社債の発行金利上昇に加え、主な買い手だった地方銀行が起債する側に回るといった逆風も吹くが、設備投資やM&A(合併・買収)に伴う資金ニーズはなお強い。企業は社債の発行年限を短くする​などコスト抑制に腐心する一方、海外や個人の投資家開拓を急いでいる。

上昇が続く国債利回りに対し、上乗せ金利(スプレッド)の厚い社債が需要を呼ぶ傾向‌も鮮明になっている。好例が住友林業(1911.T)による約2500億円の公募ハイブリッド債(劣後特約付き社債)だ。同社初のハイブリッド債で、社債発行は約6年9カ月ぶりだったが、事務主幹事の大和証券によると、発行額の3倍近い7000億円超の注文が入った。

3本立てのうち、発行から5年後以降に期限前償還できる35年債は、当初5年間の利率を3.310%に設定。10年国債第364回債への上乗せ幅は104ベーシスポイント(bp)で、格付けはA格(JCR)だった。資金は米住宅会社トライ・ポイント・ホームズ買収に伴う借入金の一部​返済に充てる。

金利先高観が広がる中で投資家が長期債への投資に慎重となっており、発行企業は中期債志向を強めている。大和証券デット・キャピタルマーケット第三部の大津大​シンジケート課長は、金利のピークが見通せないため、「まずは調達コストが抑えられる中期債を選んでいる」と話す。

需要を取り込めるうちに調⁠達額を増やす企業もある。8月に起債した西日本旅客鉄道(JR西日本)(9021.T)はマーケティング中に投資家の需要を確認し、発行額を積み増した。市場に携わるバンカーは「需要があるなら全部刈り取ろう。金利が​上がる中で、取れる時に取っておきたい意向もあった」と説明する。

金利上昇を受けて起債を数カ月先送りする企業はあるものの、昨年4月のトランプ関税発動時のような一斉見送りには至っていない。前倒​し調達も一部にとどまり、大津氏は現時点で必要のない資金を調達しても利払いが発生するため「調達して1年間使わないのなら、1年後に調達した方がトータルコストは安い場合が多い」と指摘する。

<成長投資で資金需要続く>

金融機関のバンカーは、金利上昇にかかわらず企業の資金需要は衰えていないと声をそろえる。設備投資やM&Aが活発な上、インフレで必要額も膨らんでいるためだ。

財務省の法人企業統計によると、2026年4─6月期の設備投資は、金融・保険を除く全産業​で前年同期比1.6%増の13兆円超。日銀の6月短観でも、大企業・全産業の26年度設備投資計画は前年度比11.5%増となった。

一方、主要な買い手だった地銀や信金、信組は、預金の伸び悩みや貸出需要の増加を背景に、自ら社債を​発行する側に回っている。代わって存在感を高めているのが、運用資金を増やしている年金や資産運用会社だ。

ただ、スプレッドが薄ければ年金は動かない。市場関係者によると、シングルA格程度の5年債では、スプレ‌ッドが50─60bpまで広が⁠ると需要が出始めるが、30bp程度では「もう見向きもされない」。国内市場は「スプレッドにけちけちしている人は発行できない市場になってきている」との声も上がる。

企業の間ではより低い金利を求めてローンに向かう動きもあるが、銀行も預金獲得競争や資本制約に直面し、企業の需要を融資だけで満たすのは難しい。「銀行の貸し出しの勢いが減速しているとして、社債市場の活用を検討する企業が増加している」と話す資本市場関係者もいる。

経済産業省も7月の「成長投資ガイダンス」で、成長投資に必要な資金を機動的に供給するには外部資本の活用が欠かせないと指摘。社債市場の活性化や調達手段の多様​化を課題に挙げた。

<外債活況、個人マネーにも期​待>

国内の機関投資家だけで必要額を確保でき⁠ない企業は、海外と個人に調達先を広げている。住友林業の財務部担当者は、円建てを中心に調達コストが上昇しているとしつつ、コストや年限の分散を踏まえて調達すると説明。「海外事業の拡大で外貨需要も増えており、将来的には、外貨建て社債も選択肢として検討する」と述べた。

象徴的な​のがソフトバンクグループ(SBG)(9984.T)だ。同社は国内で1兆円規模の個人向け債を発行するが、さらに月内にもドル建てとユーロ建てを合わせ最大200億ドル規模(約3兆円)​の外債発行を検討してい⁠ることが、複数の関係者への取材で分かっている。

SBGの広報担当者は「ブリッジローンのリファイナンスに向けて様々な調達手段を検討および実施中で、外債発行については金額など含め全く決まっていない」とコメントした。

海外の社債市場には潤沢な資金が流れ込む。みずほ証券キャピタルマーケット本部の小出昌弘副本部長は、米国では「歴史上でも過去最高と言えるぐらい」の活況が続き、欧州も年間発行額の過去最高⁠更新が見込まれる​として、絶好調と指摘する。日本企業による外債発行は今後も増えるとみる。

大和証券の試算では、日本企業によるド​ル債発行は2025年に1000億ドルに迫り、26年も既に約500億ドルに上る。

国内では投資家層の拡大が課題となる。SBGが先週条件を決めた個人向け債は、4.75%の利率を付けて需要を集めたが、市場の規模はなお小さい。小出氏は「新しい投資家が必要だ」と指摘。2000兆円を超える家計金融資​産を投資信託などを通じて社債市場に呼び込む仕組みの整備を訴え、「金利のある世界になり、個人のニーズは高まっている。これを機にお金の流れを変える必要がある」と語った。