日銀の気候変動対応オペの利用が拡大を続けている。「金利のある世界」が到来し、金融機関が貸し出しを増やす中で、安定的に低い金利で資金調達できることが地方銀行を中心に注目を集めている。オペの趣旨に沿って気候対策投融資の実績は着実に伸びているとして、日銀は地銀などの積極活用を静観する構えだが、本来の目的や金融正常化との整合性が課題として浮かぶ。
17日に実施された気候変動対応オペの利用金額は13兆9812億円で、2021年12月の初回以降で最高を更新した。
日銀は21年に金融機関の気候変動対応投融資をバックファイナンスする目的で同オペを導入し、年2回実施してきた。昨年半ばに利用額が急増、今回さらに利用額が増えたことで、金融機関への資金供給は年間25兆円程度に膨らんだ。
足元は不動産関連やM&A(企業の合併・買収)などに絡む資金ニーズが依然強く、金融機関は貸し出しを積極化し、預金額に占める貸出金を示す預貸率が上昇している。その半面、人口減や投資への資金シフトで預金の伸びは貸し出しの伸びに追いついておらず、預金獲得競争が激化している。
常陽銀行・経営企画部の佐久山大輔担当部長は「当行は預貸率が70%程度で、現時点で資金の余力は十分にある。ただし、インフレが続けば将来的に預金が集めにくくなることが想定されるため、将来調達をどうしていくか行内で分析・検討している」と話す。その上で、将来に向けた調達の手段としては「日銀の気候変動オペや社債発行、住宅ローンの証券化などが考えられる」とする。
群馬銀行・総合企画部ALM(資産・負債の総合管理)戦略室の村田祐紀室長も、気候変動対応オペが「調達多様化の手段に入ってくる」と話す。気候変動対応オペは「預金以外の調達手段と比べれば有利で、使いやすい」と指摘する。
<低利調達の手段として注目集まる、日銀は静観の構え>
気候変動対応オペの貸付金利は政策金利と同水準で現状は1%。ただ、貸付期間が1年のため、向こう1年の間に追加利上げがあれば1%で調達できる妙味は膨らむ。さらに、気候変動対応オペで調達したがすぐに必要ではない資金を日銀当座預金に置いておけば、付利金利(足元1%)が付くメリットもある。
利用金額が急増したのは25年7月で、同年1月の6兆9704億円から45.8%増えて10兆1594億円となった。24年に利上げに転じた日銀が金利正常化を継続する中、調達手段の多様化を進める地銀が増えたことに加え、日銀の貸出増加支援資金供給制度(貸出増加支援オペ)による新規貸し出しが25年6月に終わった影響もあったとみられる。
本来の狙いとは別に、安定的で低利な資金調達手段という側面が注目されているのが現状だ。日銀では、気候変動対応の投融資実績が着実に伸びているため、問題はないとの声が出ている。制度趣旨を踏まえて、銀行にある程度のインセンティブを与えることは重要との見方もある。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介シニア債券ストラテジストは、気候変動対応オペは制度趣旨から見て利上げやバランスシート縮小とは性格を異にするものの「制度の趣旨に沿った形で活用されているのか、どの程度政策の効果が発揮されているのか、丁寧な検証が求められる」と話す。
<資金ニーズ強く利用上限「引き上げる」金融機関も>
気候変動オペでは、日銀の規定に沿って金融機関が事前に集計・提出した気候変動対応投融資の実績が貸付限度額になる。日銀によれば25年7月以降、限度額に対して75%以上利用する金融機関が増え、26年1月には約8割の金融機関が上限に対して75%以上の資金を調達した。
金融機関の中には、投融資実績の「算出の仕方」を見直すことでオペの利用上限を引き上げる動きもあったもようだ。
日銀は「気候変動対応に資する投融資」として、グリーンローンやグリーンボンドなどの類型を示し、さらにこれらに「準じる投融資」として、具体的にどういったものがそれに当たるのか金融機関の判断を開示するよう求めている。金融機関側の集計作業は手間がかかるため、かつては一部の類型を集計せずに投融資実績を算出し、日銀に提出していた機関も見られたが、気候変動対応オペを積極活用する観点から、これまで申請していなかった類型を新たに含めて申請してきた事例があったという。
気候変動オペの利用額が17日実施分で一段と増えたことで、貸付残高は24兆9361億円となった。日銀の利上げや国債買い入れの減額といった金融正常化に逆行するようにも映るが、日銀では、気候変動対応オペは利用上限があり、貸出増加支援オペの代替にはならない、との声が出ている。
東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは「今くらいの規模であれば問題ないのではないか」と指摘。ただ「あまり大規模になると、金融引き締め局面なのに気候変動対応オペでは資金供給を積極的に行うという矛盾が起きてしまうおそれがある」と話している。